■以前、このメルマガで、GoProというビデオカメラのことをとりあげました。
参考:飛び火マーケティングの時代−GoPro
http://www.createvalue.biz/column2/post-261.html
これを書いたのが、昨年の10月です。
ニッチなメーカーの事例としてとりあげたつもりでしたが、今や、ニッチだとは言ってられないようです。
現在、デジタルビデオカメラの市場では2位。しかも、早晩、1位のソニーを追い越すことが確実視されています。
どうなってしまったのでしょうか。
■おさらいします。
GoProとは、アメリカのベンチャー企業であるWoodman Labsが、2009年に発売した商品です。
もともとは、創業者の趣味であるサーフィンの場面を撮るために開発されました。
それが評判を呼んで、多くのスポーツシーンで使われるようになりました。
今や「アクションカメラ」というジャンルを形成して、多くの大手メーカーが市場参入するようになっています。
つまりトップメーカーは、市場成長の恩恵を受けて、大きく飛躍することになりました。
■なぜこうも短期間に、市場を形成するに至ったのか。
一つは、趣味的な商品のため、一部のユーザーに対して、突き刺さるようなインパクトがあったことです。
最初から大衆を狙っていたならば、濃いファンを形成することはできなかったでしょう。
しかし、自分の趣味を満足させるためにつくった商品なら、こだわるところはこだわる、無視するところは無視する、というさじ加減に迷いがありません。
具体的には、軽い、小さい、防水、いろんなところに取り付けやすい。という特長があるものの、光学ズームや液晶モニター、手ぶれ補正、ドルビーサウンドなどはついていません。
その潔さがこの商品の特徴です。
■エッジが効いた商品は口コミが起きやすいという特徴もあります。
現代的といいますか、この商品は、SNS環境に乗って、拡散していきました。
Facebookなどで、サーファーの視線からの動画がシェアされ、話題になりました。
しかも、迫力ある映像を撮るために、これまでのような大掛かりなセットもアイデアも巨額の資金もいらないわけです。
むしろ拍子抜けするほど安い。従来のデジカメよりは高い設定ですが、ビデオカメラとしては高くはありません。
これが話題にならない方がおかしい、ということでした。
■安い理由は、機能を絞っただけではありません。
こちらも現代の特徴ですが、この商品はほぼアウトソーシングで製造されています。
従来のようにカメラを製造するために自前の技術と生産設備が必要だとすれば、これほど簡単安価に製造することはできなかったはずです。
既に世の中にある技術を使って、他社の設備を使って製造された商品だから、スタートアップの時から安い設定ができたのです。
■私が「飛び火マーケティング」と書いたのは、一部のユーザーに深く突き刺さる商品は、他のユーザーにも深く突き刺さりやすい、ということを示していました。
GoProの場合、サーファーが使っているのを見て、他のスポーツ愛好者が放っておくはずがありません。
スキーヤー、ボーダー、スカイダイバー、その他あらゆるスポーツ愛好者が、自分の体験をビデオに残そうと考えました。
だからこそ短期間で、一市場を形成するに至ったのです。
趣味的発想の商品、企画のみのファブレスメーカー、SNSの活用という現代的なメーカーの成功事例になったわけです。
■創業者がこれから市場に打って出るには、差別化が絶対条件です。
GoProも、例外ではなく、差別化された商品企画から始まりました。
ただし、その差別化は、一般のメーカーのような製品技術力ではありません。
あくまで、用途を意識した企画力、SNSをうまく使った販促にありました。
しかし、市場がここまで大きくなって、追われる立場になると、これまでのような差別化だけでは通用しません。
なぜなら、後続は、ソニーをはじめ、パナソニックやケンウッドや、技術力、生産力に長けたメーカー群です。
技術や製品の特徴、販促方法などはキャッチアップした上で、さらに様々な差別化を仕掛けてくるでしょう。それをミートする力が、Woodman Labsにあるでしょうか。
同社もそのあたりをキモと考えたのか、基幹技術(カメラのセンサ部分だったかな?)を自社内部で製作する体制を整えようとしていますが、果たしてそれで大手企業の追求をかわせるのかというと、常識的には無理でしょう。
残るのは、先駆者としてのブランド力とコアな顧客群、彼らに対する専門的なサービスやアフターフォローです。
現実的には、GoProは、市場シェアの高さを背景に、強いロイヤルティを持つ顧客を囲い込むことで、その地位を守ろうとすることになるのでしょう。
■もっとも、市場が成熟してくると、それだけでトップを維持するのは難しくなるでしょうね。
安定した市場で低コスト競争に持ち込まれると、中国や台湾のメーカーに太刀打ちできないはずです。
かといって付加価値の高い差別化機能は、日本のメーカーにやられてしまいます。
アップルのように、携帯端末からパソコンから通販サイトから押さえてしまっていても、市場が成熟した時に、今のような高シェアを維持できるかどうか分かりません。
GoProを中心としたエコシステムを作ろうというのが、Woodman Labsの戦略なのかも知れませんが、結局は、趣味的なブランドとしてニッチ市場を守り続けることになるのが現実的なところなんでしょう。
あるいは、ブランド力のあるうちに、事業を売却するというのもありえる話です。
それはそれで立派な戦略です。次のことをやればいいわけですから。
■ともかく、これは、ニッチ市場に突き刺して、それをどのようにして広げていくかを示した好事例です。
大いに参考にして、我々も、ニッチな市場の攻略と飛び火マーケティングにつなげていきたいものです。