(2016年11月17日メルマガより)


■ユニクロの業績がどうにも振るいませんね。


日経新聞をみると、前年同月比マイナスのニュースが続いています。

ところがファーストリテイリング(持株会社)の株価は意外にいいらしい。

どういうことなんでしょうか。

■ファーストリテイリングの2016年8月期決算売上は、1兆7864億円。日本のアパレル企業としては、突き抜けた実績を誇っています。(2位のしまむらは、5461億円)

ところがここ数年は頭打ち感があり、特に利益が落ち込んでいました。

ちなみに、2016年8月期の同社の当期利益は、481億円。(しまむらは、306億円)

収益性において大きく見劣りします。

そのファストリの82%を占めるのが、ユニクロです。つまり、ファストリの不振は、ユニクロの不振にほかなりません。

■ユニクロの場合、国内売上が8217億円。海外売上が6431億円。(会社四季報記載の割合による)

国内では飽和状態感のあるユニクロの商品ですが、海外では好調で店舗数を増やしています。

だとすると、ユニクロの問題は、国内店舗の整理と底上げ。および為替対策ということになります。

ことにここ数年は円安が続き、ユニクロの業績を直撃していました。

あまりにも急激な円安だったので仕方のない面はありますが、それに甘えていては、希代の経営者柳井正氏の名が泣きますね。

ですから、円安傾向に一段落がついている今日、ファストリの業績が上昇する予測がたてられているわけです。

■もっとも国内ユニクロの実績があまり芳しくないのは事実です。

もともとユニクロは、アパレル商品からファッションの要素を取り去ったところから飛躍しました。

すなわち日用品としての衣服への特化です。

日用品なので、品質と機能が大切です。その品質と機能を追求しながら、低価格を実現したことが消費者の支持を得ることになりました。

簡単にいうと「いいものを安く」売ったわけですな。

いいものなのに安くできた理由は、ファッション性を取り去ったから。

流行がないので、売り切る必要性が薄い。売り切りのための費用も廃棄ロスもかかりにくい。

だから最初から低価格を実現することができたのです。

■ところが、ある時からユニクロの低価格路線にブレが生じました。

一つは海外展開です。日本の低価格を海外にそのまま持ち込んでも、現地では安いとはとらえられません。

むしろ、そこそこいい値段だと考えられているようです。

それでも海外で売れているのは、ユニクロの品質と機能が評価されているからです。

そこに甘えたというわけではないでしょうが、日本国内でも、少々高くても売れてしかるべしという考えがあったかのような値上げを敢行しました。

それが国内消費者のユニクロ離れにつながりました。

■もう一つは、GU(ジーユー)の存在です。

ユニクロの姉妹版のように登場したジーユーは、ユニクロよりも3割安い価格帯を志向しました。だから品質においては、少々劣ります。

が、こういう新ブランドの登場は、消費者にとって、ユニクロが一段高くなったとの印象を植え付けてしまいました。

機能品質がいいのにえらく安いことがユニクロの良さだったのに、機能品質はいいけど値段もそれなりだな。。となれば、魅力半減です。

実際には高いというわけではないのですが、消費者というのはわがままですから、そこそこの値段なら他のブランドを探してみたくなります。

■そのジーユーですが、ここにきて絶好調です。

2016年8月期の決算で、売上高は1878億円。(ユニクロの10分の1強)

ファストリ全体ではまだ大きくないものの、前年比33%増、営業利益222億円は35%増ですから立派です。

ジーユーの経営者は「10年で売上高1兆円を目指す」と強気です。

そうなれば、ファストリもユニクロとジーユーの2大看板でやっていけます。

■なぜジーユーが好調なのでしょうか。

当初、ジーユーは、ユニクロの廉価版という位置づけでした。その時は、あまりパッとしませんでした。

確かにそうですね。ユニクロより品質の悪いものをちょっと安く売ってますと言われても、ピンときません。

むしろ、消費者をなめているのか!って言いたくなりますよね^^

■990円ジーンズなんてヒット商品があったものの、それでもブームは一過性だったようです。

もっともヒットがあって自信をつけた経営陣は、消費者や従業員からの聞き取りを重ねた上で、「ファストファッション」というコンセプトに舵を切ります。

思い出してください。ユニクロは、脱ファッションで飛躍したブランドです。日常着る服だから高機能、高品質、デザインはなるべくシンプルに。というのがそのコンセプトでした。

ところが、ジーユーの主要顧客(あるいは従業員)は、若い女性でした。彼女たちが求めているのは「安くてもダサくない服」でした。

見渡すと、安くてもダサくないおしゃれな服は海外製ばかり。

それならと「日本発のファストファッション」というコンセプトを打ち出すことに勝機を見出したのです。

安くてもおしゃれな服を日本から発信するというジーユーのコンセプトは、脱ユニクロを示すものでした。

逆に、ファッションへの接近を試行錯誤して迷走していたユニクロは、吹っ切れたのか「ライフ ウェア」というコンセプトを前面に出すようになります。

ここに至って、二つのブランドは被ることもなくなり、成長の方向性が定まってきたようです。

■だからファストリがいま強化しようとしているのは、ユニクロの海外展開とジーユーの拡大です。

ユニクロに関していえば、まだ海外展開の余地があります。ブランド力もあります。

問題は、日本国内です。既に飽和感があります。しかも高品質の日用品ですから、買い替え需要が起こりにくい。

要するに、ユニクロ事業の限界が見えてしまったわけで、これだけで柳井氏が目指す10兆円には届かないということです。

■しかし、ジーユーは違います。

ファッションとしてのアパレルは、買い替え需要が旺盛で、市場が大きい。収益性も高く、ビジネスとして魅力があります。

しかも、日本発のファストファッションというコンセプトは、海外ブランドを高く売ってきた日本の業界にとって革新的で、破壊力のある事業たりえます。

海外でも日本発信のファッションブランドは魅力のはず。

競合はインデックス(ZARA)やH&Mといった強烈な企業ですが、売上高1兆円となれば、ユニクロとともに、十分に肩を並べることができます。

(インデックス:2兆4254億円、H&M:2兆1637億円、2014年)
http://www.fashionsnap.com/the-posts/2015-09-01/apparel-rank-2014/

既に完成しているユニクロというビジネスと、これから世界に出ようとするジーユーというビジネスを持つファストリは、これらの競合他社よりも可能性を感じます。

ジーユーが1兆円を超え、ユニクロをも超える時、ファストリは、世界トップになっているはずです。

それが、株式市場にも評価されている今日なのでしょう。

■しかし不安もありますね。

まずユニクロとジーユーというビジネスは別物です。

SPA(製造小売り)という形態は同じでも、方や日用品、方やファッションです。成功のための方法論が全然違います。

ユニクロは機能と品質をひたすら追求してきたビジネスですが、ジーユーでは流行を捉えなければなりません。

流行を追わなくていいから、在庫処分ロスも少ないというのがユニクロの特長だったのに、ジーユーではそうはいきません。流行をとらえてヒットを作るための方法論がなければ拡大どころか存続も危うくなるでしょう。

■もう一つは、ジーユーの掲げる「日本発のファストファッション」というコンセプトが、期待どおり世界に受け入れられるかが未知数であること。

ZARAもH&Mも、ファストファッションの大手ブランドですが、特に民族性を打ち出しているわけではありません。というか、ファストファッションって、スペイン発とかスウェーデン発とか特に重要ではない。

そこにジーユーが「日本発」というコンセプトを貫いて受け入れられるのか、あるいは受け入れられない時の軌道修正で迷走しないのか。

こればかりはやってみないとわかりません。

■さらにいうと、ファストリは今後の成長のためにM&Aを積極的にやっていくことでしょう。

柳井氏の性格からも、ビジネスの段階からも、それは間違いないと思います。

その際、他国の企業を買収して、今まで通りのクオリティを保ったまま成長していけるかどうかは、やはり未知数です。

イケイケの企業がM&Aでつまづいて、成長を鈍化させるってことはよくありますからね。

■そんなわけで不安はあるものの、ジーユーという成長ビジネスを得たファストリは、ここでようやく世界に伍する展望を得たのではないか。

そんなふうに感じます。

日本発の世界企業が飛躍することを心から願っております。

参考:ユニクロ顔負け、急成長するジーユーの秘訣 日本発ファストファッションは化けるのか?
http://toyokeizai.net/articles/-/140804

参考:「ユニクロにはできなかったことを」を掲げたジーユーの改革
http://diamond.jp/articles/-/87302


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