(2017年2月9日メルマガより)
■お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣氏の書いた絵本「えんとつ町のプペル」が、売れに売れているそうですね。
聞くところによると25万部を超えたのだとか。
1万部、2万部でよく売れたーと言われる絵本の世界で、25万部というのは規格外も規格外。
なんでこんなに売れたのでしょうか。
■ストーリーがいい。絵がきれい。有名人が描いたから。
ありきたりな理由を並べてしまいそうですが、もちろんそれだけで売れるほど安易なものではありません。
舞台裏を西野氏自身がいろんなところで明かしていますが、この作品がここまで大ヒットするためには、周到に練られた戦略・戦術があったようです。
しかも、その販売方法をめぐって、他のクリエイターたちからクレームがついて炎上騒ぎまで起きています。
いったい何があったというのでしょうか。
■そもそも西野亮廣という人は、芸人の中でも独特の考えを持つ人のようです。
その著書「魔法のコンパス」を読むとその個性的な考えがよくわかります。(ちなみにこちらもよく売れています)
芸人・キングコング西野氏は、デビューして間もなくテレビのレギュラーも得て、順風満帆なタレント活動だったはずですが、25歳の頃、突然「テレビのひな壇に出るのやめる」と宣言します。
今やバラエティ番組のひな壇は、芸人さんの特等席であり、晴れ舞台のはず。
それを自ら降りる。というのだから、お前何を考えてるんだ。と先輩たちから批判される羽目になります。
が、本人は「ひな壇なんて嫌だ、MCがやりたい」と生意気なことを言っているわけではなく「自分はひな壇芸が苦手だ。ここでは勝てない」と考えた末の宣言だったようです。
まるで「このままではダウンタウンに勝てない」と言って漫才を辞めてしまった島田紳助のようではないですか。
ひな壇がなくても、西野氏は、独演会や舞台の脚本、プロデュース、その他さまざまな活動を行う才能豊かな人です。
テレビのひな壇で、その他大勢の一人になるよりも、一番になれる土俵で勝負した方がいいと考えるのは、戦略としてしごく真っ当なことです。
■西野氏が取り組むものの一つが絵本を描くことでした。
もっとも最初の2冊ほどは、西野氏の期待ほど売れなかったようです。
そこで、どうすれば売れるのかを考えた西野氏は、その特異な思考能力を発揮して、独特の販売方法を編み出します。
それが「絵本をお土産にする」という方法でした。
西野氏はこう考えます。
もともと絵本は(生きていくのに)必要なものではない。では必要ではないのに、売れているものって何だろう。→お土産だ!
旅行先で買う土産物。名所のペナント。映画館や演劇のパンフレット。あれほど不必要なものはないのに多くの人が買っていく。
だったら、絵本をただの「本」ではなく「お土産」にしてしまえばいい。
そこで彼は、全国で「絵本の原画展」を開催し、その入り口で絵本を販売するという作戦に出ます。
ツイッターで「原画展を開きたい人は無料で原画を貸し出しますよー」と募集するという荒業を使って、です。
この販売方法は、今回の「えんとつ町のプペル」でも踏襲されており、大ヒットの原動力の一つとなりました。
■コンサルタントとして解説すると、この販売方法は「体験消費」と「内部相互補助」を組み合わせたものです。
西野氏がいうように、ものが溢れかえっている時代、企業のプロモーションに飽き飽きしている我々は、生活必需品以外を購入する動機を失っています。
(その生活必需品に関しては、アマゾンが定額・低額で提供するビジネスを作っていくでしょう←前回のメルマガの話です)
その中で、我々が「面白い!よかった!感動した!」と思えるのが「体験」です。
古い広告コピーですが「モノよりコト」というやつです。
「旅行」という商品は、体験消費の最たるもの。我々は、旅行という体験の感動・感激の記念にお土産を買うわけです。
西野氏がやろうとしたのは、土産物を売るために「旅行」を無料で提供しようという試みです。
■さらに「内部相互補助」とは、企業やグループが、ある商品やサービスの利益で、他の商品やサービスを無料提供する販売方法のことです。通常は、無料の商品・サービスで、他の商品・サービスの購入を促します。
↑今回、読み返しましたが、新たな気づきがいっぱいありました。名著です。
西野氏はこの本を読んだのでしょうかね。読まなかったとしても、西野氏がこの本に書かれている内容をとりいれ応用し実行していることは確かです。
西野氏は「マネタイズのタイミングを後ろにずらす」という独特の言い回しをしています。先にサービスを提供する。(西野氏は「恩を売る」と言っています)そうすると、恩返ししたい人だけが、何か違う形(お金であったりサービスであったり)で返してくれる。
これを下手にやると、見返りありきの姿勢を見透かされてしまいます。例えば金の権利を売る営業がやたら過剰なサービスをするような。そうなると「どうせ高い商品を売りつけたいだけだろ」と顧客側もただ食いの罪悪感を覚えません。
西野氏が優れているのと思うのは、そんじょそこらの見返りでは無理だろーと思えるようなサービスを最初にやってしまうこと。要するに、見返りなどいらない、という姿勢を持っていることです。(少なくともそう見せています)
だから、彼のことを面白いと思った人たちは、何らかの形でお返しをしたくなるわけです。
西野氏の戦略の一番の特徴は、このフリー戦略を実にうまく使いこなしていることです。
■たとえば、上の「魔法のコンパス」の中には、西野氏が1カ月間仕事を休んでひたすらサービスに務める「実験」を行ったというエピソードが載っています。
ちょうど西野氏の個展が開催されていたので、毎日ギャラリーに通って、お客さんの悩みを聞き、話をして、芸をして、一緒に酒を飲んで、サービスに務めたそうです。
もちろんノーギャラです。
すると、実際に西野氏に接した人たちは、驚きながらも感激し、西野氏に親しみと信頼を抱くようになります。要するに強烈なファンになります。
結果として、西野氏が実施していたクラウドファンディングに支援が集まり、絵本の製作費1000万円を達成しました。
これが西野氏のいう「マネタイズのタイミングを後ろにずらす」という意味です。
■もう一つ。西野氏の特徴として、常に人を巻き込もうとする姿勢があります。
たとえば「えんとつ町のプペル」は、大勢のクリエイターたちが参加して制作されています。映画とかアニメの制作のように、西野氏は監督やプロデューサーの役割でした。
西野氏一人で作るよりもいいものができる。というのがその考えで、作家性を重視する絵本作家からは批判されたようですが、面白いものができればそれでいいやん。と私も思います。
その製作費の一部は、クラウドファンディングで集められました。これはお金を集めようというだけではなく、絵本製作を応援していくれる人を増やそうという試みです。
さらにいえば、度重なる炎上騒ぎも、西野氏にとっては知名度と応援者を増やすことにつながっているそうです。
確かに、西野氏の発言は、誤解されやすい。というかイラっとするような言い方をしています。炎上するのもむべなるかな。
先日は、「えんとつ町のプペル」をインターネットで無償公開したとして、炎上騒ぎになりました。
参考:お金の奴隷解放宣言。(西野氏のブログ)
批判しているのは、個人のクリエイターたち。「西野君は既に売れたからそれでいいかもしれんが、画を描いて飯を食ってる我々を食えなくしようというのか!」という意見が主だったと思います。
が、上のフリー戦略をみてくれるとわかると思いますが、絵本の無料公開そのものは、市場をつぶすものでも何でもない。むしろ、市場を拡大させるための施策です。絵のデータを公開して消費者との接点を増やして、絵本を拡販せんがためのもので、実際に「えんとつ町のプペル」はさらに売れたということです。
堀江貴文氏(ホリエモン)が、批判に対して「こいつらバカか」とつぶやいたのも当然なわけです。
しかし、この炎上騒ぎの理由はそこではないですよね。実際には「お金の奴隷解放」とか「「お金が無い人には見せませーん」ってナンダ?/糞ダセー。」とかいう西野氏の気障ったらしい言い方にモゾモゾきた人たちが騒いでいるのではないでしょうかね。
確信犯なのかそうでないのかわかりませんが、どうも西野氏は「炎上体質」なのでしょう。
だけど西野氏は「炎上すればその分、知名度が上がり、味方も増える」と仰っています。前向きなのはいいことですね。
■まとめます。
「えんとつ町のプペル」を売るために西野氏がとった戦略の特徴は
(1)顧客も製作者も巻き込み、作品のクオリティを上げつつ協力者を増やした。
(2)西野氏のもともとの知名度も利用してフリー戦略をめいっぱい仕掛けた。
(3)イベントや原画展により絵本販売を体験消費に近づけた。
(4)さらには批判者も巻き込んで、販売そのものをイベント化した。
だと考えます。
■ちなみに、私は、西野氏のことをあまり知らなかったのですが、今回いろいろ調べてみて、実に面白い人だなーと感心しまいた。
この本の中で、彼は「これからは町を作る」と宣言しています。
なぜ町なのか。ビジネス的にいうと、協力者をいっぱい巻き込み、さらに得意のフリー戦略でお客さんをいっぱい巻き込み、町のどこかでお金を落としてくれたらいい、という考えです。
つまり町とは、相互連携のビジネスグループであり、ひとつの経済圏を指すものです。
なんと西野氏は、アマゾンやグーグルが実現しているビジネスモデルをリアルな形で作り上げようとしているらしいのです。
全くもって面白い人です。
これからも注目していきたいと思いますので、面白いことをどんどん仕掛けていってくださいね。
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