(2007年6月21日メルマガより)

■「小さな市場に特化して一点集中する」

これが、ランチェスター戦略にいう弱者の戦略のセオリーです。

6月2日のセミナーでは「集中できない人は"集中する能力"がない」と発言し、皆さんに動揺を与えたようです。
しかし、これは私が普段から実感していることでもあります。

頭で理解していても、いつまでも思い切ることができず、慣れ親しんだ儲からない事業をダラダラ続けてしまう。。。こういう方の煮え切らなさは、格別のものがあります^^;

これは「能力」の問題なんだと私が考える所以です。

今一度、自分はどういう市場に(製品に、売り方に)集中すればいいのかを考えるようにしてください。

■実は日本には小さな市場に特化して高収益を誇る会社がいっぱいあります。

特に「部品」に特化した製造業の強さは目を見張るものがあります。

世界を席巻する中国製品や韓国製品も、中身(使っている部品)は殆ど日本製だと言われるぐらいです。

今を時めくipodも、日本の部品技術がなければ実現は不可能だったそうですから。

■浪江一公氏の「プロフィット・ピラミッド」には、そんな高収益な部品企業の事例が多く記載されています。



一読をお奨めします。

キーエンス、ローム、ファナック、シマノ、ヒロセ電機、マブチモーター。。いずれも小さな部品に特化したために世界的な企業となりました。

彼らの多くは、他の企業が手がけないような難しい技術、面倒な技術にあえて挑戦し、狭い分野で"トンガッタ"技術を身につけ、圧倒的な競争力を持つに至っています。

いや、実際には、圧倒的な競争力を持てない分野からはすぐに撤退するという行動を繰り返しています。ロームにしろ、キーエンスにしろ、低価格の競合品が登場すれば、その事業をあっさり捨てるという潔さです。「価格競争するぐらいなら、やめたらあ!」というわけですね^^

■価格競争になれば、その事業を捨てる。。。ということは、次に取り組むべき事業分野を準備しているということです。

そうです。高度な技術力を誇る部品製造業者は、高収益で得たお金を次の事業の準備のための研究開発に使っています。複数の事業を準備しておいて、いざという時にはポケットから取り出すわけです。

まさに「高度な技術力」という強みを最大限活かしたビジネススキームではありませんか。(儲からない事業で粘るような無駄な金の使い方はしないということです)

■もっとも「高度な技術力」がない企業は、競争にしがみついていかなければ生き残れません。

安売りでもなんでもいいから、とことん土俵にしがみつく。

製品で差別化ができないのなら、市場を少し変えたり、地域をずらしたり、売り方を工夫したり。そういう努力が必要になります。

多くの企業は、実際には、そうしたマッチレースに参加せざるを得ない状況です。

だからこそ、ランチェスター戦略の存在意義もあるんですが。

■さいたま市にナガワという会社があります。こちらの状況はさらにシリアスです。

安売りでもなんでもして土俵にしがみつけるならまだいい方です。

こちらが主戦場にしていた市場は、長い間、縮小を続けていたのです。土俵そのものが崩れ落ちていくのです。

■ナガワは、工事用ユニットハウスのメーカーです。工事現場などにある簡易事務所を想像してください。あれを製造し、代理店に卸すか、工事の業者にレンタルすることで収益を上げていた会社です。

ところが、日本の国は構造的に土木工事や建設工事が減少してきています。特にバブル崩壊後には建設業の衰退は顕著でした。だから、周辺事業であるナガワの売上も伸びようはずがありません。

頑張ってシェアを上げようにも、市場の縮小の方が早いという凄まじい状況です。こうなってしまえば、ジタバタしても、浮かばれません。ナガワは、工事業者へのレンタル期間を延ばすなどの対症療法で現状維持を図るのが精一杯だったようです。

こういう事態に陥った時、企業者はどのように過ごせばいいのでしょうか。

■ナガワの場合、商売の原点である「最終ユーザー」に答えを探しました。

同社は、自社製品がどのように使われているかを調査します。すると、工事現場に行くはずのユニットハウスが、物置や子供部屋、道路沿いのラーメン屋などに転用されている例があることを知ります。

ユニットハウスは、窓もあって空調もつけられるものですから、普通の物置よりも、人が過ごしやすい空間となります。しかも、一から建築するよりもずっと低コストでできます。

この市場の小さな変異点に目をつけたことがナガワに成功をもたらします。

■最初はダメで元々と思ったのか、それともある種の確信があったのか。

果たして、個人向けにユニットハウスを売り出したところ、ヒットします。

展示場を拡張し、売上を拡大したところあたりから、本格的な事業化に取り組みます。

クリーニング店、クレープ店、たこ焼き店。ログハウス風の事務所。今では街でちらほら見るようになった簡易店舗がそれです。同社は、それぞれの用途に応じたユニットを開発していきます。

あるいは、消費者金融の口座開設受付所、工場の喫煙ルーム、危険物保管倉庫など、新たな用途開発を続けているようです。

おわかりだと思いますが、こうした新たなターゲット向けの商品は、工事用ユニットで競争を続けているよりも、ずっと儲かります。

売上と利益率。両方を得ることになったのです。

■迷った時は、最終ユーザーに聞け。

ピーター・ドラッカーも「組織の中にプロフィットセンターはない。すべては顧客のところにある」と発言しています。

ちなみに前述のローム、キーエンス、ファナックなどの部品企業も単に自社の技術力を磨いているだけではありません。

彼らは自社の部品を利用することでどのような最終製品が作られて、どう使われるのかに責任を持ついわゆる"コンサルティング・セールス"を標榜しています。

それは、単純なニーズを汲み取るということではありません。組み立てメーカーも気づかないような最終ユーザーの利益に責任を持つことです。

■ナガワも、最終ユーザーを直視せずに、代理店やレンタル動向だけを見ているばかりでは、座して死を待つばかりだったことでしょう。

現場を直視し、小さな変異点に着目する。これが、イノベーションのきっかけでした。

ピーター・ドラッカーは「変な客が来たら、それが本命の客だ」とも発言しています。

やはり事業発展のヒントは「最終ユーザー」に聞いてみることです。

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