ヤマダ電機


(2017年9月21日メルマガより)


家電量販店のトップ企業ヤマダ電機が、新業態店舗を茨城県ひたちなか市に出すそうです。


売り場面積は1500坪。店の半分は家電製品、半分は家具やキッチン用品を扱うとのこと。

ヤマダ電機とイケアがくっついたような店の内容です。

家電量販店といえば、市場規模の縮小と売上低下の危機にさらされており、抜本的な対策を迫られているさなかにありました。今回の店舗が、ヤマダ電機なりの解答だということなのでしょう。

成長モデルの転換を迫られる家電量販店


家電量販店の業界規模は約7兆円。前回のメルマガでとりあげたドラッグストアより少し大きな売上規模になりますが、あちらは伸び盛りの業界です。早々にも逆転されることになりそうです。


ヤマダ電機グループの売上高は1兆5630億円。ピーク時の2兆1532億円からは、3割近く目減りしています。

飛ぶ鳥を落とすような勢いだったヤマダ電機がなぜこのようになってしまったというのでしょうか?

カテゴリーキラーの興隆と没落


もともと家電量販店は、家電製品が百貨店や専門店、量販店中心に売られていた時代に、カテゴリーキラーとして登場しました。

※カテゴリーキラーとは、家電や衣料品など、特定の分野(カテゴリ)の商品のみを豊富に品揃えし、低価格で販売する小売店業態。カテゴリーキラーが進出すると、商圏内の総合スーパーや百貨店は、そのカテゴリーの取扱を縮小もしくは撤退に追い込まれることからこう呼ばれている。(wikipediaより)

それより以前、家電製品の売り場が乏しかった頃は、各メーカーは「ナショナルショップ」「東芝の店」「日立の店」といった系列販売店を組織し、自社商品を販売していました。われわれ消費者は、たいていは近所の販売店に行って、その店の扱いメーカーを定価で購入するしかなかったわけです。

量販店の雄、ダイエーが、家電製品を値引き販売するぞ!と宣言した時も、メーカーの抵抗は凄まじいものがあり、パナソニックは自社製品をダイエーに卸させなかったものです。それぐらい、メーカーの力が強かった時代がありました。

ところが1990年代に力をつけてきたカテゴリーキラーたる家電量販店は、バブル崩壊後の販売不況時に、むしろメーカーから頼られる存在となりました。

背に腹は代えられん。どんどん売ってください。販売奨励金も出しますよ。なんなら販売応援員を出しましょうか。てなもんです。

われわれ消費者も、すべてのメーカーの売れ筋商品が一同に会した売り場は購買に便利ですから、支持したわけです。


家電量販店は、典型的な薄利多売の店です。安く仕入れて、ライバル会社より1円でも安く売る。というのが使命です。

だから少しでも購買力をつけようと、合併を繰り返していったのは必然でした。ヤマダ電機も、成長の過程で、多くの家電量販店や周辺企業を買収し、業界随一の巨大企業となっていきました。

ところが、その規模の大きさが弱点になったのだから皮肉なものです。市場が飽和し、売上が下がり始めると、店舗も人数も肥大したトップ企業が最も苦しむことになりました。


ヤマダ電機側が予測できないこともありました。スマートフォンが登場すると、パソコンやカメラなどの製品が売れなくなってしまいました。あおりを受けて、日本の家電メーカーがパワーを失ってしまったのです。

カテゴリーキラーというのは確固たるカテゴリーが存在するからこそ機能するものです。肝心のカテゴリーが魅力を失ってしまったら、キラーの存在意義も失われてしまいます。

日本の主要メーカーとの関係性で有利にビジネスを進めてきたヤマダ電機とすれば、有名メーカーの商品が安く並んでいますよ、というだけでは消費者を引き付ける力がなくなってしまったのです。


「ショールーミング」


もう一つ、家電量販店を苦しめているのが、ネット通販の存在です。

店舗を持たないネット通販店は低コストですから、家電量販店よりも安い価格で販売することができます。

消費者も現金なものです。「ショールーミング」といって、ヤマダ電機で商品説明を受けておきながら、安いネット通販で購入してしまいます。

最近では、ヤマダ電機側も慣れっこになって、その場でカカクコムをみながら価格交渉することが普通になってきました。

ただでさえ薄利なのに、こんなことをやっていたら利益は残りませんよ。

ヨドバシカメラはアマゾンに真っ向勝負


ネット通販に真っ向から立ち向かおうとするのが、業界3位のヨドバシカメラです。

ヨドバシカメラは、売上高6796億円。ですが、23店舗しかないので、1店あたりの売上高は、約295億円です。(ヤマダ電機は1.3億円)

ヨドバシカメラは、家電量販店全盛の頃も、店舗拡大路線には背を向けて、都心店舗でじっくり売ることを戦略にしてきました。

利便性のいい都心に巨大店舗を持っているので、「ショールーミング」するには絶好の場所です。それを逆手にとったヨドバシは、むしろ積極的にネット購入することを推奨しています。ただし、自社サイトで。

ヨドバシは、アマゾンに対抗してヨドバシコムという通販サイトを構築・整備しています。アマゾンのような怪物企業に対抗するなんてどうかしてるよ〜と言いたくなりますが、なかなかどうして、ヨドバシコムは、家電製品に関してはすこぶる使いやすい。自社運送の仕組みを整備しており、商品によってはアマゾンよりも早く届けてくれますし、運賃は全品無料です。運賃も含めればそれほど価格差がなくなるので、消費者もヨドバシで買おうとなるようです。

あるいはヨドバシには、メーカーのブースも用意されています。パソコンなどを購入する場合、メーカーは自社サイトで購入することを勧めてきます。消費者とすればメーカーから直接購入する方が安心ですし、価格も安いはずです。

なにより消費者はレジに並ぶ必要がない。言われるがままにクリックしてしまえば、あとは家に帰って商品の到着を待つだけなので便利です。

ヨドバシ側は、自社運送の仕組みを整備して、運賃無料を実現しています。ポイントや運賃も含めればそれほど価格差がなくなるので、消費者もヨドバシで買おうとなるようです。

巨大企業ゆえ万事おおざっぱなアマゾンの隙を突き、ヨドバシコムの顧客満足度はすこぶる高くなっています。日本国内だけでいけば、ヨドバシの方が分があるかも知れません。

もっともアマゾンは「儲けない」ことを信条にする異次元の会社ですから、今後どんな手を打ってくるかわかりません。気は抜けませんよ。

オリジナル商品を増やす


いっぽうのヤマダ電機も、ヤマダウェブコムというネット通販サイトを開設していますが、店舗販売の補完的な位置づけにとどまっており、アマゾンに対抗するような本気度はありません。

ヤマダ電機が「ショールーミング」されないようにするためにはどうするのか。

商品に独自性を持たせられればいいわけです。

たとえばニトリは、家具のほかにも日用品や雑貨を多く取り扱っていますが、ニトリ店内でショールーミングされたという話はあまり聞きません。

なぜかというと、ニトリは自社で企画した製品を販売しているからです。

ニトリの売上高は5129億円。営業利益は857億円。営業利益率は16.7%です。

ヤマダ電機の営業利益率が4.2%ですから全然違います。

これは、ニトリが自社で開発、製造、物流、販売を一貫して行うビジネスモデルだからです。製造体制を整えるためには、大きな先行投資が必要ですが、それが機能するようになると、高利益を得ることができます。

ヤマダ電機も同じようにできないものか?

確かにヤマダ電機にもPB商品が存在します。しかし、PB(プライベート・ブランド)といっても、メーカー商品の品番を変えただけのようなやる気のないPBなので、殆ど意味はありません。

だけど今は、勢いのある新興メーカーがたくさん出てきていますから、PB商品ではなくても、ヤマダ電機だけでしか売らない商品を作ることも可能なはずです。

その一環として、メーカーの船井電機が、ヤマダ電機オリジナルテレビを発売することを発表しました。


これが成功するかどうかは未知数ですが、試みは評価できます。

ちなみにヤマダ電機は船井電機以外でも、新興の家電メーカーを支援する政策を発表しています。販売経路に困っている新興メーカーとすれば、ヤマダ電機が積極的に売り場を提供してくれるのは心強いことでしょう。

ただし、いくら船井電機が限定商品を提供してくれようが、新興メーカーがオリジナル商品を作ってくれようが、数量は限られています。

売上高1兆5630億円。12074店のお腹を満たすほどの影響力は持てないだろうと思います。


住宅分野への進出は正しいのか


今回ヤマダ電機がはじめた新業態店も今年度20店舗が目標となってますが、いわゆるテスト的な出店です。

半分が家電製品、半分が家具や日用品を並べて家をまるごと提案する、となっていますが、いまの日本に思うほどの新築物件や丸ごとリフォームの需要があるのでしょうか?

※新設住宅着工件数のピークは1996年の163万戸。2016年は97万戸です。

子会社のヤマダ・エスバイエルホームの昨年の住宅販売戸数が2109戸。仮に150%を上乗せしたとしても、3163戸。

家と耐久消費財を合わせて2200万円として、696億円の売上高です。昨年のヤマダ・エスバイエルホームの売上高が436億円ですから、260億円の上乗せにしかなりません。


丸ごと提案ではなく単品で家具や日用品を販売するというなら、ニトリと競合することになり、勝ち目があるとは思えません。

むしろニトリが、家電製品の製造に進出して、ヤマダ電機の牙城を脅かすというシナリオの方が現実的です。

新業態店の成功は重要だが、それだけで生き残れるのか


要するに、ヤマダ電機は大きくなりすぎたのです。

振興メーカーと協力しあって、オリジナル商品の扱いを増やす。

住宅販売やリフォームに進出して家まるごと提案をする。

という試みは評価できますが、新規展開が成功したとしても、売上高1兆5630億円。12074店のガタイはあまりにも大きい。

日本の人口減少は予測されたことですが、日本の家電メーカーの衰退、ネット通販の台頭といった環境変化が早すぎたと言わざるを得ません。

ヤマダ電機は、住宅関連分野への進出を全社戦略としており、今回の店舗がその試金石となるのでしょう。

その成否については、今回の新業態店舗の状況を待たなければなりませんが、たとえ一定の成功を収めたとしても、相当の規模縮小が求められることは間違いないと考えます。


※下記を参考にしています。



図解! 業界地図2018年版
ビジネスリサーチ・ジャパン
プレジデント社
2017-08-09







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