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今年のプロ野球は、セ・リーグは広島、パ・リーグはソフトバンクが優勝しました。クライマックスシリーズが残っているとはいえ、この2チームの実力が抜けていることは認めざるを得ません。

ソフトバンクと広島は、球団経営においても優秀


この2チームは強いだけではない。球団運営においても非常に優秀です。

広島東洋カープは、実質、自動車会社マツダの創業家が個人的に所有する球団です。個人所有ですよ。だから、お金がない。その中で、経費を切り詰め切り詰め、運営しています。

個人所有の球団が赤字だと即座に破たんするので、運営には慎重にならざるを得ません。おかげで、40年以上黒字経営。40億円以上の内部留保金がある健全経営です。

ソフトバンクは、日本プロ野球随一の資金力を誇るといわれており、選手層が厚いことで有名です。他チームならレギュラーになれるような選手も、ソフトバンクにおいては控えか2軍に甘んじているほどです。

さすがソフトバンク、資金力が違う。と思いがちですが、実は、ソフトバンク球団も親会社からの補てんを受けずに運営しています。こちらも50億円近い内部留保金があります。

なんと今年の優勝チームは、野球に強いだけではなく、経営でも超優良球団であったのです。

参考:プロ野球チームの業界分析_純利益・ROE・ROAなど

少子高齢化により崩れたテレビ主導の球団運営


プロ野球球団といえば、赤字が当たり前。親会社の広告宣伝費でまかなうのが通例だという時代が長く続いていました。ところが日本は少子高齢化の成熟市場です。右肩上がりに業績を伸ばせない企業にとって、毎年何十億もの赤字を補てんすることが負担になってきています。

一昔前まで、プロ野球球団のビジネスモデルとえば、テレビ放映権収入一択でした。プロ野球はテレビで高視聴率を当たり前に稼ぐキラーコンテンツでしたから、放映権料も破格でした。読売巨人を中心に、放映権料をあてに経営していたものです。

ところがこちらも神通力が落ちています。プロ野球だけがスポーツではない。娯楽は多様化しています。それにテレビそのものがパワーを落としています。いまや巨人戦が地上波放送されないコンテンツに成り下がってしまいました。

パ・リーグ球団が見出した地域密着型ビジネスモデル


親会社はあてにできない。テレビはもっとあてにできないと思った各球団は、独自に収益モデルを構築します。

まずは、危機感の強いパ・リーグの球団が、拠点を地方都市に移して、地域密着型のビジネスモデルを構築しています。

北海道日本ハムファイターズ、東北楽天イーグルス、そして福岡ソフトバンクホークスです。

その成功に刺激を受けたのか、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズや広島東洋カープも、同じような運営を目指しています。

地域密着型ビジネスモデルとは、テレビ放送に頼らずに、地域の人たちが球場に来場する入場料収入と、その人気を背景にした地域企業からのスポンサー収入でまかなう仕組みです。

地域の顧客を対象にしたビジネスなので市場規模は限られてきますが、一定の収入が確保できるので、経費管理を適切に行うことで成立します。

このおかげで、現在、巨人、阪神、広島、DeNA、ソフトバンク、楽天の6球団が黒字だと言われています。

巨人、阪神は別格の人気球団ですからいいとして、他の4球団の企業努力はたいしたものだと思いますよ。

地域密着型ビジネスの収入割合


プロ野球球団は経営資料を明かさないところが多いので分かりにくいのですが、楽天の収入割合をみると、その実情がなんとなく見えてきます。

楽天の場合、

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広告宣伝…30%、入場料…30%、放映権料…7%、グッズ販売…10%、飲食…15%

というのが収入の内訳です。(以前メモしていたのですが、出典を失念しました(><))

これに対して、経費は、選手年棒、スタッフの給与、施設費用、移動費用、キャンプの費用など。

広島やDeNAなどは、近年の人気で入場料は高止まりしていると言われますから、収入は予測できますので、経費管理もしやすいというものです。

日本ハムファイターズが赤字の理由


待てよ。球団運営に優れているといわれる北海道日本ハムファイターズは黒字ではないのか?

実はそうなのです。

北海道日本ハムファイターズは、本拠地である札幌ドームの営業権を持っていません。だから、収入は、入場料と放映権料などのみ。球場内の広告料や飲食代なども札幌ドームを持つ札幌市のもの。その上、年間、27億円ほどの球場使用料を札幌市に支払っています。

これでは、黒字にならないでしょうね。

最近、日本ハムファイターズが、札幌市と対立してまで新球場を設立する計画を発表したのは、経営上仕方がない面があるのです。

参考:日ハム、巨額使用料吸い取る札幌ドームと決別…売店収入や球場の広告料も日ハムに入らず

地域密着型ビジネスは、球場の一体運営が前提


このように、地域密着型のビジネスモデルには、球場の運営権が不可欠です。

ソフトバンク、楽天、西武、ロッテなどパ・リーグ球団は、球場の運営権を持っていることが多く、チームと球場一体で運営することが可能となっています。(セ・リーグでは、広島、DeNA)

逆に、球場の運営権を持たない日本ハム、ヤクルトなどは厳しい運営を迫られています。

わが阪神タイガースはどうなのか?というと、甲子園球場は親会社の阪急阪神ホールディングスが所有する形です。

親会社が持っているならいいじゃないか。と思えそうですが、球団とすれば、収入が限られるので、自ら予算を立てづらい状況があります。もちろん儲かっているので、潤沢な資金は親会社から与えられるのでしょうが、自社戦略を作って予算を配分する自由度は制限されます。

わが阪神タイガースの選手育成や組織構築が今一つ煮え切らないのは、そういう事情もあったわけですな。やはりソフトバンクのように、稼ぎを自ら将来戦略に配分できる体制が望ましいといえます。

参考:プロ野球交流戦「廃止論」が毎年浮上する事情 観客動員増でも「おいしくない」球団もある


地域密着型ビジネスモデルは、メジャーリーグで先行して行われてきた球団運営の方式です。

彼らは球場そのものをファミリーで集える遊園地のような場所(ボールパーク)に変えることで、一大エンターテイメントビジネスとして成果を出しています。

参考:DeNA、市民のお金でつくった横浜スタジアム買収で巨額利益…一大エンタメ施設に大改修


日本のプロ野球各球団もおおむねその方向に展開していくことで戦略を定めているのではないでしょうか。

メジャーリーグが巨大ビジネスになっていった理由


しかし、地域密着型のビジネスモデルだけでは、メジャーリーグのような巨大ビジネスにはなりません。

メジャーの売上規模は、日本プロ野球の5倍以上とされています。

彼らは、放送権をコミッションが一括管理し、全米だけではなく、世界に売り込むことで地域密着を超えた巨大ビジネスにしていきました。

どうすれば放送権が高く売れるのか?それは試合そのものが白熱することです。

そこでメジャーリーグのコミッションは、球団間の格差がなるべく広がらないような工夫を凝らします。

ドラフトは完全ウェーバー制。前年の最下位チームから順番に好きな選手を指名できるルールです。その代り、FA制度が充実しており、契約年数が終われば、自然に各球団との交渉が可能になります。

そうなると資金力のある球団にいい選手が集まりがちだと思えますが、そうならないように、選手年棒総額の高い球団はメジャーリーグ機構に「制裁金」を払わなければなりません。

そこまでして球団の戦力格差をなくして試合を面白くしようと執念を燃やしているのです。

日本プロ野球はメジャーリーグに追いつくことができるのか


そういう意味では、かつて放映権を牛耳ってわがまま放題やっていた読売巨人の力が衰えてきたのは朗報です。

広島や日本ハムのように少ない予算の中でやりくりして強いチームを作る球団も出てきました。

現状、ソフトバンクの戦力が図抜けてるように思えますが、それも企業努力の範囲内であると思えます。


それよりも、放映権は今後、コミッション一括にして、アジアへの進出を目指すべきです。

アジア・オセアニア地域出身の選手は外国人枠に当てはめず、日本人と同じ扱いにする。

中国や台湾のチームを日本プロ野球のリーグに入れる。

それぐらいやらないと、少子高齢化の日本ではジリ貧になっていくだけです。


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