ここ最近、著名人の訃報が相次いでいます。
つい最近は、「燃える闘魂」アントニオ猪木氏。
英国では、エリザベス女王。
こういう人たちの訃報に接すると、時代の区切りが来たのだと感じてしまいます。
もう一人、経営の世界では、稲盛和夫氏が亡くなりました。8月24日です。
稲盛さんは、京セラの創業者であり、KDDIの前身である第二電電の創業者でもあります。
そして誰もが無理だろうと思っていた日本航空(JAL)に単身乗り込み、再建を成功させた立役者でもあります。
先月の「戦略勉強会」では、稲盛さんのことをとりあげたのですが、実績は充分すぎるほど充分なのに、思ったほど、知られていないのに驚きました。
従来の経営手法に当てはまらない
それは、私も以前から感じていたことでした。
以前、メルマガで、稲盛さんについて書いたことがあったのですが、資料の少なさに戸惑った記憶があります。
理由はいくつかあるでしょう。
その著書や言動が、スピリチャルな文脈のみで捉えられがちだったこともあるでしょう。
ご本人が熱心な民主党支持者だったことも、中央から距離を置く要因になったのかもしれません。
しかし、一番の理由は、稲盛氏の経営手法が、従来の経営理論では判定できないものだったからだと思います。
日本中が驚愕した日本航空の再建
日本航空の再建を、当時の政権党だった民主党・前原誠司氏から頼まれた際、多くの人たちが反対したそうです。
例えば、経営コンサルタントの大前研一氏も止めるように説得したと述懐しています。
当時の日本航空は、複数の労働組合がそれぞれの主義主張を言い、利害関係が複雑に絡み合っていたため、どんな優秀な経営者が経営改革を為そうにも、どこをどのように動かすのか、まるで歯が立たなかったといいます。
結局、日本航空はつぶすしかない。さすがの稲盛さんでもダメだったと言い訳するための生贄の役割を背負わされるだけになってしまうと友人知人の多くが心配したのだそうです。
ところが、稲盛さんは、自分自身と数人の腹心を連れただけで日本航空に乗り込み、3年足らずで再建を成し遂げました。
日本中が驚愕した奇跡の事例です。
この事例を分析した経営コンサルタントを悩ませたのが、稲盛さんのやったことが、従来の経営理論に当てはまらないことだったからです。
アメーバ経営とフィロソフィー
稲盛さんの経営手法は、大きく2つに集約されます。
ひとつが「アメーバ経営」といわれる経営管理手法。組織を小さな単位(アメーバ)に分けて、一時間単位で損益分析をし、個々人の成果と責任の所在を明確にするものです。
もう一つが「フィロソフィー」といわれる哲学や理念の重視です。これは、稲盛さんが生まれ育った鹿児島に綿々と伝わる儒教教育がベースになっていると思われ、嘘をつくな、人に迷惑をかけるな、欲張るな、など当たり前の道徳を守ることこそ経営の根本であると規定しています。
こんなことで経営がよくなるのか?と疑問に思う方もおられるでしょうが、現実によくなったのだから仕方ありません。
孔子は、人の上に立つ者が徳を持てば、組織は自ずからよい方向にまとまるという意味のことを言っていますが、稲盛さんの経営とは、まさに孔子が理想とするものだったのかもしれません。
東洋人なりの経営の在り方
「戦略勉強会」でとりあげたのですが、稲盛さんの著作が中国でベストセラーになっているそうです。
いまの中国は規制が厳しく経営者受難の時代ですが、少し前までは、なんでもやり放題の経営者天国だったようです。
そんな経営環境の中、欧米の最新の経営手法を駆使して、激烈な競争を勝ち抜いてきた中国のトップ経営者たちが、稲盛さんの思想に共鳴しているというのが面白い。
「手法」などで経営をしようとしても、どこかで行き詰る、ということをこの事例は示しているように私には思えます。
欧米の経営分析では測れない、東洋人なりの経営の在り方を稲盛さんは体現していたのではないでしょうか。
稲盛さんの死で埋もれてしまうのは惜しい話だと思います。