回転寿司


■私の家の近所に「大起水産」という回転寿司屋さんがあります。

堺の中央環状線沿いにある店です。

そのお店の混み具合が半端じゃありません@_@

週末にもなるとお昼1時間待ちはざら。夕食時なんて2時間待ちなんて時もあります。

それでも、時々、利用したくなるのは、やはり美味しいからです。

大起水産というのはもともと水産物の仲卸(卸売市場内で、卸売業者と小売業者を仲介する業者のこと)をしている会社です。

だから活きのいいネタを仕入れることには長けているのでしょうね

普通の回転寿司店よりは高めの設定ですが、それだけの値打ちがあると感じます。

■大起水産ってすごいなーと思っていたら、さらにすごい店を発見しました。

何がすごいかというと、その待ち時間です。

なんと最高11時間!

ありえんだろーーと思えるような待ち時間を記録したのは、大手回転寿司チェーンのかっぱ寿司です。

同社が最近実験的に始めた「食べ放題」企画の待ち時間が、ありえない状態になっているとのこと。

参考:食べ放題「10時間以上待ち」続出 「予想以上の反響」とかっぱ寿司
https://www.j-cast.com/2017/06/14300641.html?p=all

■かっぱ寿司の食べ放題企画といえば、平日14時から16時限定です。

それが11時間待ちって。限定時間をはるかに過ぎてるやんか。

仮に16時に予約したとして、27時に入店できる計算です。午前3時。さすがに閉店時間を過ぎているでしょう。

それでも店側は強気で、閉店までには案内すると主張しておられます。

ま、予約だけして、来ない人もいるでしょうから、待ち続ける人は入店できるのでしょう。

それにしても、昼過ぎに予約して、入店が夜になるって、待つ方の執念もすごいもんですよ。

■このかっぱ寿司の食べ放題企画、賛否両論です。

特に経営面からは否定する論調が多い。

参考:かっぱ寿司が食べ放題という「地獄」を選んだ本当の事情(現代ビジネス)
https://news.infoseek.co.jp/feature/kaitensushi/

私も、この企画は上策とは思いません。いわゆる悪手だと思います。

まずは、ただでさえ薄利の回転寿司において、利益を下げる企画です。

通常、外食産業の原価率は30%程度だといわれていますが、回転寿司のそれは約50%です。

もとより利益(人件費除く)は半分しかないのに、食べられたら食べられるだけ利益がなくなっていきます。

その上、回転寿司という業態は、人件費をぎりぎりに絞って成り立っているので、いまさら食べ放題にしたからといって削減できる人件費などありません。

この企画、男性1580円、女性1380円(税抜)です。

つまり男性は16皿以上食べたら得。女性は14皿以上。顧客側に、損得がガラス張りになってしまっています。

合理的に考えると、この企画にやってくるのは、16皿以上食べる人たちです。

かっぱ寿司は、そういう大食いの顧客層をターゲットにしようというのでしょうか

何かずれた企画ではないかと思う次第です。

■回転寿司が登場したのは1958年。大阪の元禄寿司が元祖です。

元禄寿司は、職人不足に困って、寿司がコンベアで流れる仕掛けを開発したと言われています。

寿司がくるくる回るという世にも珍しい仕掛けが大うけしたのは、1970年大阪万博で披露されてからだったそうです。

1978年。元禄寿司の特許が切れてから、回転寿司チェーンが登場してきます。

もともと寿司が回るという意外性、エンタメ性に加えて、大量仕入れで低価格化を実現した回転寿司チェーンは、大衆に受け入れられます。(それに対して一般の寿司店は高級化していきました)

■あらゆるビジネスは市場シェア(市場占拠率)が重要ですが、回転寿司チェーンにおいても同じです。

なにしろ薄利多売ビジネスですから、スケールメリットが効きます。

各社とも成長期に店舗数を拡大しておかなければならないと躍起になって出店していきました。

そうすると、当然ながら、チェーン同士の競争が激化していきます。

ある程度淘汰されながら、トップ企業となったのが、かっぱ寿司でした。

■かっぱ寿司は、いち早く「特急レーン」を設置したことで知られています。

流れてくる寿司を拾えばいい。店主に注文しなくていい。という手軽さは回転寿司の良さの一つです。偏屈な寿司職人のおやじと相対して食べる気まずさがありません。(←大げさなと言われるかも知れませんが、うざいおやじは本当にうざいですからねーー)

それなのに消費者は贅沢ですね。回転寿司なのに回転している寿司は食べたくない、わざわざ自分のために作った寿司を食べたいと思い始めています。

そこでかっぱ寿司は回転レーンとは別に、個別注文用のレーンを作って消費者のわがままなニーズに応えました。いまでは注文用タッチパネルも設置されています。このあたりまでは、かっぱ寿司もクールでしたねー

ところが各社とも、それに対応してきます。かっぱ寿司の優位性はすでにありません。

■2010年代になり、そろそろ回転寿司市場も成長が鈍化したかな。と言われ出した頃、日本は円安に見舞われます。

チェーン各社は輸入食材に頼っているので、原価が上がって対応に苦慮します。

かっぱ寿司も原価増に悩んだ末に、低価格を維持するために、寿司ネタの質を下げる施策に走ってしまいます。

それに対して、スシローやくら寿司は、単価を上げてでもネタの質を維持または向上させる対応をしました

そんなことをすればてきめんです。悪評はすぐに広まりますからね。結果として、かっぱ寿司は「安いけどネタが悪い」と評判になり、消費者離れを招いてしまいました。

結局、トップの座から落ちて、現在は3位です。

■かわりにトップに立ったのが、スシローです。

参考:飽和迎える回転すし市場、スシローの戦い方(日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/062100135/

同社が変わるきっかけは、ゼンショーという外圧の存在でした。

ゼンショーというのは、牛丼チェーンの「すき家」や「なか卯」を中心とする外食チェーンの大手です。

なんでも欲しがるゼンショー(全勝ですから)は、成長産業である回転寿司になみなみならぬ興味を持っていて、かっぱ寿司やスシローの買収を試みたこともありました。

特にスシローに対しては、一時、筆頭株主になったこともあります。が、スシローの経営陣は傘下に入ることをよしとせずに、ファンドの協力を得て、2009年、上場廃止してしまいます。

そこから2017年に再上場するまで、スシローとファンドは、ITを駆使した顧客分析・出店分析・業務効率改善・鮮度管理向上、メニュー開発、調達の強化に取り組みます。

特に単価を上げてでもこだわった鮮度管理が徐々に評価されて「味のスシロー」のイメージを作ります。

売上日本一を達成したのは2011年、多分に敵失によるものが多かったかも知れませんが、現在に至るまでトップ企業の地位を守り続けているのは立派です。

再上場したいま、出店攻勢をかけてトップの地位を盤石にせんと構えている状態です

■スシローとともに業績好調なのが、くら寿司です。(両社とも大阪出自)

参考:くら寿司、異様な光景の秘密 快進撃を支える驚異の異端経営 平日午後でもなぜ満席?(ビジネスジャーナル)
http://biz-journal.jp/2015/03/post_9406.html

くら寿司もスシローと同じくITを駆使した業務オペレーションの効率化に取り組んでいます。いや、むしろスシローより早く着手していたと思われます。

今では、レーンに何の皿が並んでいるかを瞬時に把握できるようになっており、いま何を投入すればいいのかをリアルタイムデータで判断できるようになっています。

くら寿司をみていて、感心するのは、そのアイデアです。「びっくらポン」なるシステムをご存じでしょうか。

これは、食べた皿を専用口に流すと枚数をカウントしてくれるシステムです。しかも5枚カウントするごとにスロットが回って、当たりが出ると粗品がもらえます。粗品そのものはつまらないものですが、子供が大喜びするので、つい5枚に達するように消費してしまいます。なんと巧妙な。

近年ではラーメン、カレー、牛丼、カレーパン、コーラと、およそ寿司店とは思えないサイドメニュー開発にひた走り、それが評判です。

要するに、くら寿司は急速にファミリーレストラン化していっています。あるいはファミリーレストランの顧客を奪っていこうとしています

もともと回転寿司は、エンタメ性を持った業態です。家族で楽しめる。そこそこ安く、美味しい。

そう考えれば、ファミリーレストラン化は、回転寿司進化の本道であり、その中心にいるのがくら寿司であると思えます。

■こうして上位2社が、低価格の中でも高品質化を追求して好調を維持しているのに比べて、かっぱ寿司は「安いけど不味い」イメージをつけられて、ひとり負けに陥りました。

困ったかっぱ寿司が、上位2社の高付加価値路線を参考にしながら、ネタの高品質化、サイドメニューの開発を模索していたところ、同社のお株を奪うように低価格路線をひた走ったのが、はま寿司でした。

参考:「はま寿司」が急成長! 「かっぱ寿司」を追い越せた理由
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1706/27/news024.html

はま寿司は、かっぱ寿司やスシローの買収に失敗したゼンショーが手掛ける回転寿司チェーンです。

同社は、何の躊躇もなく低価格戦略を突き進め、迷いのみえるかっぱ寿司を抜き去ってしまいました。

はま寿司の強みは、ゼンショーの総合力を利用できるところです。なにしろ、肉を中心に、和食、うどん、ラーメン、パスタ、カフェまで手掛けるグループですから、仕入れのスケールが違います。

はま寿司が、業界随一の低価格を貫きながら、そこそこの質や多様なメニューを実現できているのは、グループによるバックアップ体制の賜物だといえるでしょう。

はま寿司にお株を奪われたかっぱ寿司は慌てて低価格路線に回帰します。

平日1皿90円という企画は、まさにはま寿司の二番煎じです。このあたりの迷走ぶりは消費者の失笑を買うほどでした。

いったいどうしたんだ、かっぱ寿司!というわけです。

現在、かっぱ寿司の親会社はコロワイドです。

参考:なぜコロワイドは「かっぱ寿司」を買ってしまったのか
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1704/18/news006.html

コロワイドといえば、居酒屋を祖業にして、焼肉屋の牛角などを傘下に持つ総合外食産業です。

M&A(合併&買収)戦略が実に巧みで、十数回M&Aを繰り返しながらグループを大きくしてきました。

コロワイドがかっぱ寿司を買収したのが、2014年のこと。同社にとっても社運をかけた大型買収案件だったようです。

もっとも今回の案件はさすがのコロワイドも簡単にV字回復させるには至りませんでした。

後手後手を踏み続けて、困り果てたかっぱ寿司が今回、苦肉の策として取り組んだのが、「食べ放題」という企画だったわけです。

悪手だろうが何だろうが、話題になることをやって、マスコミに取り上げてもらう。

その間に、これまで取り組んできたネタの品質向上や多様化したメニューを再評価してもらい「安いけど不味い」というイメージを払拭する。

それがかっぱ寿司の狙いだということなんでしょう。

■実をいうと、私はけっこうなかっぱ寿司ユーザーです。

まあ、一番近所にある回転寿司屋がかっぱ寿司だったという理由なのですが。

正直に言いまして、一時は食べるものがないと思えるほど、ネタがしょぼかった(><)

いつも食べるのはうどんと海老天巻き。それ以外は食べる気がしませんでした。

ところが最近はちょっと変化してきていて、そこそこ食べれるようなレギュラーメニューになってきています。

確かに良くなってきているとは思います。

しかし、大起水産と比べると全然です。2倍3倍の値段がしたとしても大起水産の方が値打ちがあると感じます。

業界的にいうと、回転寿司市場は、スシロー、くら、はま、かっぱの大手4社が寡占状態を作っていて、その他の中小チェーンは、地域密着で独自性を打ち出すか、大起水産のような高価格化をしていっています。

特に回転寿司なのにそこそこいい値段のする高級店が、各地域で一つの勢力となってきています。

■上の記事(飽和迎える回転すし市場、スシローの戦い方)から各社のデータを拾ってみますと

【売上高−営業利益(利益率)】2016年。※はまは経常利益
スシロー1477億円−75億円(5.1%)
くら      1136億円−65億円(5.7%)
はま      1010億円−42億円(4.2%)
かっぱ      803億円−25億円(3.1%)

【店舗数−1店舗あたり売上高−1店舗あたり利益】
スシロー460店−3.2億円−1630万円
くら      393店−2.9億円−1654万円
はま      465店−2.2億円− 903万円
かっぱ     351店−2.3億円− 712万円

【市場シェア】※市場全体を6300億円として
スシロー23.4%
くら  18.0%
はま      16.0%
かっぱ     12.7%

やはりデータをみても、かっぱ寿司の苦境が目立ちます。

■回転寿司は、いわゆる装置産業です。

回転寿司のコンベアや寿司を作る機械などを最初に整備しなければなりません。ですから、資本力のある大手企業が有利な産業です。

その上、薄利多売ビジネスですから、店舗数の多さが競争力に反映します。

ということは、今さら新たなチェーンが台頭するとは考えにくい。回転寿司ビジネスのプレーヤーは既に出そろったと考えていいでしょう。

今後、上記4社で生き残りを賭けた戦いになっていくものと考えます。

生き残る道として、スシローは出店攻勢に出て、市場シェアの拡大に臨むはずです。

くらは、独自路線を貫きながらファミリーレストラン化に走っていくことでしょう。

ゼンショーグループのはまは「低価格路線こそ回転寿司の王道」という気持ちを持っているでしょう。そんなはまが、3位で満足しているはずがありませんから、近い将来、かっぱの買収を再度持ち掛けていくのではないでしょうか。

コロワイド(かっぱ)とすれば、高値で買って安値で買いたたかれるのは避けたいところでしょうから、何とかかっぱを立て直して、ある程度の価値をつけた上で、売却するのが落とし所となるのでしょうかね。

■今回、かっぱの食べ放題企画は、20店舗限定という及び腰だったにも関わらず、マスコミに大いに取り上げられたのですから、大成功だったといっていいでしょう。

この流れを萎ませてはならない。私なら、さらになりふり構わぬイベントを連発していきます。

当たり付き皿の導入とか。

ダーツで割引率を決めるとか。

5000円以上半額とか。

90点以上のテスト答案を持ってきたら一人半額とか。

ロシアンルーレットで激甘寿司を仕込むとか。

やれることは何でもやって、エンタメ性を高めていき、マスコミの注目を浴び続け、集客に励みます。

そして集客ができているうちに、品質向上やサイドメニュー開発に取り組むのです。

■はまは、かっぱの価値を上げたくないでしょうから、変なイベントをいちいち真似して、その独自性を希釈していきます。

チキンレース上等!という気持ちで、やってくるでしょうね。ゼンショー(全勝)ですから。

スシローは財務的に難があるのでやりにくいですし、くらは独自路線なのでやらないでしょう。

だとすれば、はまとかっぱの我慢比べの末、合併する。というのが業界再編としてありそうなシナリオだと思いますね。

つまりこの戦いの覇者ははま寿司になるのではないかという予想です。

まあ、その通りいくかどうかはわかりませんが、群雄割拠の面白い業界であることは確かです。

回転寿司は、マスコミにとりあげられる件数も多いですし、その動きが一般人にもわかりやすい。

当事者は大変でしょうが、これからの各社の戦略展開をみるのを楽しみにしております。