イーロン・マスクを超える起業家

(2021年3月18日メルマガより)


今年、1月7日、イーロン・マスク(米)が世界一の富豪になったというニュースがありました。

その資産は約19兆円。

資産の殆どは、自ら創業し、経営する電気自動車メーカー、テスラの株式です。

株式は上がり下がりします。だから、1位になったのは、瞬間的で、現在は2位のようです。(1位は、アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスです)


トヨタよりも遥かに高い期待値


テスラの株式時価総額は、約72兆円。いちばん高い時は、87兆円を超えていました。

それにしても、テスラというのは奇妙な会社です。

昨年の売上高が、3兆4千億円程度。

従業員数約7万人の会社です。

そんな会社が、売上高約30兆円、従業員数約36万人のトヨタよりも遥かに大きな株式時価総額となっているのです。(トヨタの時価総額は、約27兆円)

株式は、人気があるほど高くなります。

特に、将来有望な会社は、株価が上がりますから、テスラの将来性は、トヨタよりも遥かに高いと評価されているという理屈となります。


未来を先取りした企業


では、テスラの何が、そんなに評価されているのか?

もちろん、テスラの車は、車の動力を電気に変えただけではありません。その車の殆どがコンピュータソフトで制御されています。

ソフトですから、書き替えが容易です。

もっといい技術、もっと先進的な機能が開発されれば、後から、付け足すことができます。

だから、購入した時より、年数が経つほどに、面白い車、使いやすい車に進化していきます。

これはまるで、スマホのようだ、とお思いになるでしょうか。

まさにその通り。テスラの車は、車の形と機能を持った端末機なのです。


自動車は、これから自動運転車に進化していきます。まるっきり、コンピュータソフトが生み出す世界です。

この自動運転に関しても、ソフトが制御するテスラの車は適しています。未来に進む方向性を考えて開発されているわけで、その世界に、世界の自動車産業が、追随している状態です。

あらゆる自動車産業の再先端を走っているということですから、時価総額もいちばん大きくなるというものです。


また、テスラの株価には、天才経営者、イーロン・マスクに対する期待値も込められています。

彼なら、何をするかわからない、もっとすごいことを考え、実現するのではないかという世界中の投資家の期待が、株価に反映しています。


天才経営者 イーロン・マスク


イーロン・マスクは、まだ49歳。俳優のような顔立ちをしたイケメンです。

一説によると、映画「アイアンマン」の主人公トニー・スタークは、イーロン・マスクをモデルに考えられたキャラクターだとか。

南アフリカ出身。18歳でカナダに渡り、24歳には、電子コンテンツ出版ソフトを提供する会社を起業をします。(約25億円で売却)

28歳の時には、電子決済サービス、ペイパルの前進となる会社を起業、こちらは売却した時には、約200億円になっていました。

31歳で、宇宙ロケットの会社スペースXを起業。こちらは今でも経営しています。

そして33歳には、テスラを起業しました。

いやはや何とも華やかです。シリアル・アントレプレナーとは、彼のことでしょうか。


経験よりもロジックで勝負


それにしても、起業する内容がバラバラです。

つまり、すべての分野に、もともと精通していたわけではなく、素人の立場で乗り込んで起業したのです。

実は、イーロン・マスクは、興味を持ったら徹底的に勉強し、図書館で資料を読み込み、独自のアイデアを持ってその事業に参入するスタイルです。

いわば経験よりもロジックで勝負するタイプです。

一歩間違えれば、頭でっかちのオタクですが、彼の場合は、その道のプロが思いつかない方法で事業参入する利点となっているようです。

だから、とんでもない革新性が、その事業にこめられます。

スペースXで見せた、発射台にそのままの姿勢で戻ってくるロケットなど、誰が思いつくというのでしょうか?

だだし、経験さえあれば、もっと簡単にできると思うことに躓いたりしています。

テスラの生産能力が上がらないので、多くの識者は、中堅自動車会社を買収してノウハウを得た方が現実的だと指摘したのですが、本人は頑なでした。どうしても、自分が思うやり方を貫きたいと思うのでしょうね。

その分、遠回りしたともいえますし、いや、自分のやり方で経験を積めたのは実は近道だったという評価もあります。


人格的には、難があるらしい。

イーロン・マスクと組んだ事業パートナーの多くが、後に袂を分かち、二度と組もうとしていません。

電池開発でテスラに協力したパナソニックの右往左往ぶりをみると、その大変さがうかがい知れるというものです。

そういえば、スティーブ・ジョブズも、生前は、その性格の悪さがよく噂されていました。

どうも天才といわれる人は、周辺の人たちとうまくやっていく能力に欠けるきらいがあるようですな。

私生活では、結婚、離婚を繰り返して派手なものです。不用意な発言が物議をかもすことも多く、いろいろ話題を提供してくれます。


社会を変えることが起業の目的


もっとも、イーロン・マスクが実際にどのような人格であろうか、彼が社会に与える影響の大きさは、誰も否定することができません。

日本にも、彼のような起業家は生まれないものでしょうか。

彼に限らず、近年の起業家は、富を得ることではなく、社会を変えることを起業の目的にしています。

ジェフ・ベゾスしかり、ビル・ゲイツしかり。

スティーブ・ジョブズなど「一緒に社会を変えないか?」が有能な人物を口説く決め文句となっていたほどです。

しかし、これは何も特別なことではありません。

明治時代から、起業とは、社会に足りないものを充足させるための手段でした。

戦後の一時期、足りないものが多すぎて、何をやってもニーズを満たすから、起業目的など考える必要もなく、金もうけという私欲をモチベーションとして疑われない頃があったぐらいです。

今は、また社会が複雑化していますから、どんなニーズを満たすかを考えないと、起業は成功しません。

そのためには、いまの社会は何が足りていないか、何に困っているのか、どの方向へ行こうとしているのかを見極める必要があります。

要するに、社会と真剣に向き合わなければなりません。

多くのベンチャーキャピタルが、社会問題の解決を起業の要件としているのは、それが世の中の役に立つからであり、同時に、そうじゃないと、事業として成功を維持できないからです。

一部、あからさまに社会の矛盾をついて、鞘取りをするような胡散臭いビジネスがありますが、それ以外、維持できているビジネスは、すべて社会の役に立っています。

自信を持っていきましょう。


いまは、ベンチャーのカンブリア紀


特に今は、社会の変革期です。

いわば、ベンチャーのカンブリア紀です。

今ほど、起業のアイデアを見つけやすい時代はないでしょう。

なにしろ、ITやAIという分かりやすい技術の進化があります。

いっぽうで、昔ながらのやり方を抜け切れていない産業や業界があります。

だとすれば、あらゆる産業、業界、商品、素材に、ITやAIを組み合わせることを考えれば、新しい事業が生まれます。


それって、ITやAIに精通していないとできないことやんか?

と言われるかもしれませんが、実際には、逆です。

成功しつつあるベンチャーの特徴を見てみると、むしろ、古い業界の人間が、ITやAIのことを学び、アイデアを得て、ITやAIの専門家を巻き込んで起業するパターンが多いらしい。

だから、誰だって、ベンチャーを立ち上げるためのアイデアを着想することができるはずです。


一人一人の力は、イーロン・マスクを凌ぐ


ただし、社会的インパクトが大きいか、小さいかはあります。

自動車産業全体に、ITやAIを組み合わせると、それは巨大な産業となり、ものすごい社会インパクトです。

これが、テスラを通して、イーロン・マスクが取り組んでいることです。

じゃあ、消しゴムにITを結び付ければどうなるか?

黒板にAIをつければどうなるか?

魔法瓶にITとAIを組み合わせればどうなるか?

といえば、それほど大きな産業にはならないかもしれません。

が、だからといって、社会の役に立たないわけではありません。立派に、社会をよりよくするための役割を担っています。

自分ができるところから、確実にやっていく。

これはいつの時代も正しい姿勢です。一人一人がその姿勢を持てば、日本全体では、イーロン・マスクが、三人、四人いても、太刀打ちできないほどのパワーを持つことになるでしょう。


コロナ禍でもベンチャー投資は衰えておらず、むしろ増えています。

コロナ禍の不自由さの中で、人々は、従来にない生活や生き方を少しづつ試していっています。

コロナは、図らずも、未来がくるのを少し早める役割を果たしているようです。

アフターコロナにおいて、少しでも、社会がよりよい方向へ進んでいたら、それは我々が苦しい経験を前向きに活かすことができたということです。