(2008年1月31日メルマガより)

■久々に刺激的な本を見つけました。

細谷功氏の「地頭力を鍛える」です。




■この本の中に「フェルミ推定」なる思考法が紹介されています。

フェルミという物理学者が得意とした推計法で、例えば「日本に電柱は何本あるか?」といった検討のつかない問題を、わずかなデータを最大限活用して、ロジカルに推理していくというものです。

解答よりも、思考プロセスを重視する、思考の遊びといっても良いでしょう。

■ただ、こういう背景や前提のはっきりしない場面で意思決定を迫られることはビジネスにおいては多々あることではないでしょうか。

特に先の読めない不確定な時代においては、データを揃えているうちに時期を逸してしまうことがよくあります。

ビジネスマンは、どんなに少ない情報でも、論理的な意思決定をしなければならない存在なのですな。

■思えば、ランチェスター戦略勉強会でも、与えられた少ない情報に基づき、ビジネスの展開方法を推定しています。

市場シェアの推計なんて、フェルミ推定の最もたるものではないですか。

思考能力を鍛えたい方は、戦略勉強会でお待ちしております^^

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■「商品さえよければ必ず売れる」という考えを持つ人は、さすがにもういないだろうとしばらく思っていたのですが、実際にはそうではありませんでした^^;

私は昨年から、大阪市の中小企業支援センターと契約して働いているのですが、その相談員などをしていると良く分かります。

世の事業者の殆どが未だに「いい商品は必ず売れる」と考えていることを。

■こういう言い方をする方もいますね。

「私は売れる商品を売りたいのではない。いい商品を売りたいんだ!」

まあ、頑張ってください。

と、突き放すわけにもいきませんな。コンサルですから。

■「いい商品」を売りたいという人は、「売れる商品」を侮蔑しているんでしょうかね。

実際には、そういう人は「誰に売るか」を決めていないだけだと思います。

その商品がいいか悪いかは顧客が決めることです。

実に単純なことです。

■日経ビジネス2007年12月3日号に、アシックスの話が載っていました。

アシックスといえば、ランチェスター戦略事例の代表企業です。

このメルマガでも採り上げさせていただきました。

オニツカ錐もみ商法とは、針の先のようなニッチ需要に照準を定め、徹底して深堀する経営戦略です。

アシックスの前身オニツカタイガーは、バスケットシューズの製造から始めました。バスケットという競技の特性からシューズを作ることが難しく、ライバルが入りにくいという読みがあったからです。

ただし、単にバスケットシューズに特化しただけではありません。オニツカの商法は、バスケット競技者に直接張り付いて、事業を逆展開する方法です。

メーカーが在庫する→卸に売る→小売の店頭に並べる→競技者がそれを見て買うという商売の流れではなく、競技者がいいと言う→小売が品揃えする→卸が扱う→メーカーに注文が来るという流れを作ったのです。

ランチェスター弱者の戦略は、これを基本パターンとしています。

■前出の「地頭力を鍛える」では、問題解決思考の基本として、「結論から考える」「全体を考える」「単純に考える」ことを提唱しています。

(ちなみに私は、戦略的思考の本質を「全体性」「長期性」「合目的性」「因果性」と整理しています。ちょっと似てますね。まあ、いいんですが。)

■この「結論から考える」という部分が、マーケティングの基本とつながります。

「結論」とは顧客が買って満足するという行為のこと。

顧客が満足するためにはどのような商品づくりをしなければならないか。

それをどのように顧客に知らせたらいいのか。

顧客はどこでその商品を買えばいいのか。

いくらぐらいで買えば満足するのか。

顧客を起点に考えること。それがマーケティングの基本であり、ランチェスター弱者の戦略でもあるのです。

■しかし、今回の日経ビジネスの記事によると、アシックスが危機感を抱いているとのこと。

確かに、アシックスの売上高は、ナイキやアディダスの10分の1程度です。

彼らと肩を並べる存在にはまだなれていません。

グローバル競争の時代にそれでは危機感を抱かざるを得ないでしょう。

思えば、鬼塚喜八郎会長は「我々はナイキのマーケティング戦略に負けたのだ」と発言していました。
どういうマーケティング戦略に負けたというのでしょうか。

■アシックスの戦略は「プロが使用して満足のいくものを作る」→「プロが使って満足する」→「それに憧れて、一般の競技者が購入する」という流れを作ることです。

だから、アシックスはプロには非常に人気が高い。実に高品質高機能なんですね。

まさに「いい商品」を売るビジネスです。

ただこの戦略には限界があります。

この少子化の時代に、競技人口が増えることはありません。つまり市場規模は縮小するばかりなのです。

このままでは縮小均衡するしかありません。。。

■これに対してナイキは、一般の消費者をターゲットにしています。

ブランドイメージは、スポーツ用品ではなく、スポーティなファッションという位置づけです。

広告塔となるスポーツ選手は、一般人にも分かる超有名選手ばかり。

機能性もあり、しかもファッション性が高い。スポーティなイメージが好きな人は多い。市場規模が非常に大きいのです。

■実はナイキはもともとオニツカタイガーの販売代理店だった時期がありました。

その頃に、オニツカタイガーの戦略をよく研究して、それを応用した自身の戦略を作り上げたのでしょう。

プロに売る→一般人がほしがる。。という2ステップよりも、ダイレクトに一般人に販売する戦略を組み立てました。

ナイキの戦略は、オニツカタイガーの戦略を応用し、差別化させたものだったのです。

ナイキが最初から圧倒的なイメージ戦略という「強者の戦略」を使ったのかどうかは分かりませんが、現在は堂々たる強者として勝ちパターンを作り上げています。

バスケットシューズが普段履く靴として浸透したのは、ナイキのマイケル・ジョーダンを使ったイメージ戦略によるところが大きいでしょう。

この戦略にいち早く気づいたアディダスは、ナイキばりのイメージ戦略を採り入れ、欧州を中心にサッカー市場を死守しています。

■とすれば、アシックスには何が残されたのか。

日経ビジネスによると、アシックスは銀座の直営店でランニング教室を開催しているということです。
そうなんですね。アシックスは走る競技に強い。

なにせ、オリンピックの女子マラソン金メダリストが2大会連続アシックスの靴を履いていたのですから。

もっとも、ここでアシックスが競技人口をコツコツ増やすという高度成長期のヤマハ音楽教室のようなことをしていくわけではないでしょう。

今後アシックスががする戦略は2つです。

1つは、マラソンやジョギングなど走る競技でのブランド力をさらに高めること。

もう1つは、そのイメージを一般消費者に浸透させて、一般ブランドとして認知されること。

■まとめます。

ビジネスは結論から考えること。つまり「顧客」を起点に組み立てなければならない。

オニツカ錐もみ商法はまさに、顧客起点の戦略だった。

ただし、ナイキは、顧客を「一般消費者」に設定し、そこを起点にビジネスを組み立てた。すなわち、アシックスよりもスケールが大きな顧客起点のビジネスを作り上げた。

アシックスは、ナイキの戦略を研究し、さらに差別化された顧客起点のビジネスを展開すべき時である。

■ジョギングやマラソンは、タイガー・ウッズやデビット・ベッカムのような超有名選手がでにくい競技です。

要するに、身近で、とっつきやすいスポーツです。

そこでは確かに、ナイキのイメージ戦略は効きにくいことでしょう。

10分の1の規模だからできる戦略があるはずです。