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上記は、楠木建教授(一橋大学大学院)の講演録を記事にしたものです。前後編の後編にあたります。前編はこちらです。


楠木教授といえば、「ストーリーとしての経営戦略」が有名ですね。





私も熱心に読んだものですし、触発されて、こんなメルマガを書きました。

戦略はストーリーで語れ

戦略はストーリーで語れ2

面白い戦略ストーリーの作り方

3つも記事を書くというのは余程はまったのですかね^^


経営に万能の杖はない

「ストーリーとしての経営戦略」の中で楠木教授は、

経営に万能の手法などはない。経営は常に様々な要素が複雑に絡み合った文脈としてしか語れない。いわば、ストーリーのようなものであり、経営戦略とは良いストーリーを作るアートである。

といった意味のことを言っておられます。

全くその通り。

万能の杖などありませんし、環境が変われば同じ経営者が同じことをしてもうまくいくとは限りません。

一回限りで再現性がないからこそアートなのです。

ただし、いい作品をたくさん生み出す小説家がいるように、いい戦略ストーリーを何回も作れる経営者がいるのも確かです。

あるいは、ハリウッド映画のように、マニュアルに則った映画作成によって、それなりのヒット作を生み出す方法も確立されています。

つまりアートの世界にも、何らかの原理原則があり、それを踏み外さないことがいい作品を生む秘訣であると考えることができます。

経営も同じです。常に無勝手流ではあまりにも確率が低い。

われわれコンサルタントが存在する意味は、そのアートのような経営に伴走し、出来る限り原理原則を踏み外さないようにサポートすることだと考えています。

ちなみに、楠木氏は、その著書の中で、いい戦略ストーリーを生み出すための「骨法」を語っていますので、興味のある方は読んでみてください。


オポチュニティ企業、クオリティ企業

さて今回の記事ですが、今度は「オポチュニティ企業」「クオリティ企業」という概念を提示しています。

オポチュニティ企業は、成長市場などのチャンスを見つけて、いちはやく参入し、先行者利益を稼ぐ。企業内部を洗練させるのではなく、社外の成長市場の発見と確保に儲ける理由を求めます。

これに対してクオリティ企業は、市場に儲けのネタを求めず、顧客と密な関係を作るビジネスモデルで成熟市場でも持続的な成長を目指します。

オポチュニティ企業=狩猟型。クオリティ企業=農耕型。といえば近いのかな。

判断が早い欧米の経営者は、オポチュニティ志向が強く、したがってオポチュニティ企業が多いようです。わが国のソフトバンクは、日本におけるオポチュニティ企業代表です。


日本企業は、儲からないところで儲けるから長生きする

これに対して、粘り強くコツコツ努力することが得意な日本企業は、クオリティ企業が多い。

たとえば育児用品メーカーのピジョン。

生後18か月までの商品しか作らない。という方針を貫いています。

なぜなら、18か月までは、世界中どこにいっても赤ん坊は赤ん坊だから。文化的な違いが出る前の世界中の赤ちゃん向けに商品を提供するという戦略です。


あるいは、コピーライターの糸井重里氏が代表を務める「ほぼ日」

ネット事業なのに、あえて旬は追わず、日常的な内容の記事ばかりを掲載しています。

そうすることで、少数だが滞留性の高いユーザーと信頼関係を作り、手帳や土鍋などを販売するビジネスです。

「クオリティ企業=中小企業」ではない。オポチュニティをつかんで急成長、というわけにはいかないが、立ち位置をはっきり定めて、そこで戦略に磨きをかけることによって、独自の価値を作り、営業利益率10%以上をたたき出す。これがクオリティ企業のイメージだ。

旬を追うどころか、需要が少なく競争がゆるやかなところで儲ける仕組みを作る。

まさにランチェスター戦略のいう弱者の戦略の考え方に合致します。

目的は勝つことではなく、生き残ること

私は「孫子の兵法」の信奉者でもありますが、孫子が明確なのは戦争に勝つことではなく、生き残ることを目的にしていることです。

参考:「孫子の兵法」を企業経営に活かす方法

需要を追うのではなく、顧客との信頼関係を基盤にビジネスを組み立てる。という考えは、孫子のいう生き残る秘訣にも通じるものです。

そういえば楠木建教授も「ストーリーとしての経営戦略」の中で、経営戦略の目的は長期利益の実現だと書いていました。

ここでいうクオリティ企業というのは、日本人の気質や思想に合った経営方法なんですよ。きっと。