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茶番だが最高だった「世紀の一戦」というところでしょうか。

煽るだけ煽っておいて、結果は大方の予想通り。

むしろ試合中よりも前段階のキャンペーンが凄まじかった。

ビジネスとしては、売上高5億ドルとも6億ドルともいわれています。

まさにアメリカのスポーツビジネスのスケールの大きさを見た気がしました。

これほどの大金が動く理由


なんでアメリカの格闘技はこれほどの規模になるのでしょうか。

過去、最も大きなイベントだったメイウェザーvsパッキャオ戦の売上内訳をみていると

ペイ・パー・ビュー 購入料 4億ドル

会場入場料 7100万ドル

その他(グッズ売上、スポンサー収入、ライブビューイング) 約3000万ドル

全部で約5億ドル(550億円)

といわれています。


ごらんの通り、最も大きいのがペイ・パー・ビュー購入料。これはその試合をテレビやネットで視聴するための料金のことで、イベントごとに支払いが必要です。

日本ではWOWOWやDAZNなど、月定額料金が一般的なので、試合ごとに払う方式というのがピンとこないかも知れませんが、アメリカでは広く採用されている視聴方法です。

ペイ・パー・ビュー方式は人気が如実に出ます。見たい試合なら金を出す。見たくないなら出さない。ということですから、人気のない試合にはお金が入りませんし、人気のある試合には青天井で大金が集まります。

放送局としては、お金を払ってでも見たい試合を作ることに躍起にならざるを得ません。

また、この方式は、選手ごとの集金力が明確に出るので、ファイトマネーを高騰させる要因となっています。今回のメイウェザー330億円、マクレガー110億円というのはペイ・パー・ビュー購入の出来高報酬を含んでいます。

それだけに、アメリカで活躍する格闘家は、大金の稼げるビッグマッチを志向します。一試合で100億円以上稼げる可能性があるのだから、目指さない人はいないでしょう。

だから彼らは、インパクトのある勝ち方をして自分の価値をぎりぎりまで高め、ピークのところで大金を稼げるビッグマッチをしようと考えます。そのためには、有名選手を打ち負かさねばなりませんし、逆に無名なのに変に強い選手は避けなければなりません。


「金の亡者」フロイド・メイウェザー


そんなペイ・パー・ビュー時代の申し子とでもいうべき存在が、フロイド・メイウェザーでした。

彼は、鉄壁の防御技術とスピードを武器に、絶対負けないボクサーでした。有名選手たちを次々に退け、5階級を制覇。キャリア後半はパウンド・フォー・パウンド(体重差がなかったとして一番強いボクサー)の永世1位の存在でした。

本来、彼のボクシングは玄人受けする高度なものですが、KO勝ちを狙わないので、素人にはわかりにくい。ところが、彼はあえて「金を稼ぐためにボクシングをやってるのさ。つまらない試合だろうが何だろうが関係ない。悔しかったらおれを倒してみろ」などとうそぶく悪役を演じて、人気を得ました。

このあたり強い相手を片っ端からKOしていったパッキャオとは違う存在です。あるいはパッキャオならメイウェザーを倒すかも知れない。と多くが期待したものですが、判定狙いの戦法を崩すことはできませんでした。

そうして積み上げた49勝無敗という記録は、伝説のチャンピオン・ロッキー・マルシアノに並ぶものです。いったんは引退を表明しましたが、誰もこれで終わりとは思っていませんでした。金が欲しいからまた復帰するぜーと予想されたからです。

総合格闘家マクレガーの執拗な挑発が、試合を実現


そんなメイウェザーにかみついたのが、総合格闘家のコナー・マクレガーです。

総合格闘技UFCの2階級同時チャンピオンとして絶大な人気を誇るマクレガーですが、あろうことか、ボクシングルールで対戦せよ!と言い出しのです。

確かにマクレガーは総合格闘家としてはボクシング技術に長けたチャンピオンだと言われていますが、それでも素人です。49戦49勝のボクサーに勝てるはずがない。

ところがマクレガーは執拗でした。ことあるごとに挑発を続け、ついにメイウェザーを引きずり出します。

全米騒然。総合格闘家とボクサー。異なる競技の強いチャンピオン同士が本気で闘うといいだしたのだから、それは話題になります。(あ、メイウェザーは引退していたからチャンピオンではありませんが)

試合が決まってから、彼らはアメリカ主要都市をまわって記者会見を開き、その度ごとに罵り合い、乱闘騒ぎを起こし、雰囲気を盛り上げていきました。茶番感ありありの演出ですが、盛り上がりは最高潮に。

予想通りだが、最高のビッグマッチだった


果たして、試合は予想通り。

街の喧嘩屋のようなパンチで迫るマクレガーに、じっとガードを固めるメイウェザー。このあたりユーチューブにアップされているストリートファイト動画のような生々しさがあって面白かった。

メイウェザーもブランクがあるからか動きに精彩がなく、素人パンチをけっこうもらっていました。そうですね、メイウェザーの衰えが、この試合を面白くしていたことは否めません。

もっとも、そんな無茶ぶりのパンチで倒されるはずもありません。中盤スタミナ切れを起こしたマクレガーに、メイウェザーが襲い掛かり、10ラウンドTKO勝ち。

メイウェザーはKO勝利したことで面目を保ち、マクレガーは善戦したことで評価を上げました。

それでギャラは途方もない額です。メイウェザーなんてこんなことを言っています。
「誰もがバカなことをしてしまうものだけれど、俺はバカじゃない。36分間で3億5000万ドルを稼ぐ機会があったら、やらないわけにはいかないさ」
参考:50戦全勝で引退表明 最後もメイウェザーの思惑通り

ユーザーも試合内容にはおおむね満足しているようですし、さらにいうと、放送局や主催者はビッグマッチを成功させたわけですから、四方よし。

近年珍しい誰もが満足したというビッグイベントでした。

パンドラの箱を開けてしまった


ただボクシング関係者は、あまりよく思っていないようです。それはそうですよね。ボクシングだけでビッグマッチが成立するのに、わざわざボクシングの権威を落とすようなイベントをする意味がない。

相手に何もさせずに圧勝したならまだしも、それなりの闘いをされてしまったのです。これから格闘技ファンが「このボクサーは、UFCのだれそれと闘ったら負けるかも知れない」なんて憶測するための判断基準を与えてしまったことになります。

つまり、この試合はパンドラの箱を開けてしまったのではないか。

一度、こういう異色マッチが成立してしまった以上は、今後もファンは期待するでしょう。特に強い総合格闘家が現れた時は、ボクシングのチャンピオンと闘ってほしいと思うことを止められません。


逆に総合格闘技界からしたら今回の試合は、百利あって一害なし。権威も報酬も格上のボクシングと同じステージに立ち、それなりの闘いをしたわけですから

もはやマクレガーは総合格闘技界きってのカリスマです。今後は闘うだけで対戦相手に箔をつけるような存在になりました。

何より総合格闘家でも一試合100億円の報酬をもらえることがわかったわけです。皆がそれを目指して、ボクサーに絡んでくるでしょうね。

これは厄介ですよ。もっと重いクラスなら、ラッキーパンチが当たって番狂わせが起きる可能性もありますからね。

ボクサーが負けたりしたらえらいことです。ボクシング側とすればできればやりたくない。

だけど、そこはショービジネス大国アメリカですから、大金が稼げる機会をみすみす逃すはずがありませんわね。今回味をしめた放送局が放っておきません。

きっとこれからも、こういう試合は組まれるでしょう。



それにしても、このたびの試合。日本で成立するとは考えにくいですよね。

日本でいえば、亀田興起と那須川天心がボクシングルールで闘うようなもの?

それは日本ボクシング界が許しませんよ。


なにせ武尊と那須川天心の試合もタブー視されているぐらいですからね。

そう思うと、アメリカのスポーツビジネスはやはり懐が深い。

羨ましい限りです。