(2015年4月30日メルマガより)



■今年の1月、
日本の航空会社3位のスカイマークが民事再生法を申請しました。

参考:スカイマーク、民事再生法 負債710億円、運航は継続(日本経済新聞・有料記事)
http://s.nikkei.com/1z74zgQ

4年前には、日本航空(JAL)も会社更生法を適用されましたし、日本の航空業界は動きが激しいですね。

※ちなみに、民事再生法、会社更生法ともに、自力では事業継続できなくなった会社が、倒産させずに再建を目指す際に適用される法律です。

JALの場合、日本政府の政策の犠牲になったという側面がありましたが、スカイマークの場合もそのきらいはあります。

ただもちろんそれだけではありません。

スカイマーク自身の戦略ミスも否定できません。


■スカイマークの創業は1996年です。航空会社の競争を促して、柔軟な価格やサービスの向上を促したい政府の後押しがありました

スカイマーク(および政府)が目指したのは、航空業界の第三極です。JALとANAの2社が独占する日本の航空業界の3つめの勢力です。

なんだか三国志における魏と呉に対する蜀の建国のようですね。

政府は、日本で最も需要が大きい羽田空港の発着枠を多くスカイマークに振り当て、積極的に支援しました。

JALやANAとすれば「えこひいきすんなよー」って愚痴の一つも言いたくなるでしょうが、もともとこの2社が政府の航空行政によって守られていたわけですから、今さら言うのもお門違いです。

ところが、そんな恵まれたスタートを切ったスカイマークが、20年もたずに破綻状態に陥ってしまったのですから、経営は難しい。


■スカイマークの最初の路線は、羽田−福岡です。

もともと需要があるところに、価格を大手の半分程度に抑えて運航したために、人気を博します。

ところが、当然ながら、大手2社は、価格を合わせてきます。

自由競争なんだから、政府も文句は言えません。

ブランド力もありサービスもしっかりしているJALやANAが採算度外視して、価格を合わせてきたら、新参者は分が悪い。

最初にスカイマークを立ち上げたHISの澤田秀雄氏は「あてが外れた」とばかりに経営から手をひきます。

後を受け継いだ西久保氏になってから、一時期は経営を立て直したと思われていましたが、最近になってまた経営悪化が顕在化しました。


■その原因となったのが、ピーチやジェットスターやバニラエアなどLCC(ロー・コスト・キャリア:格安航空会社)との競争です。

低価格を"売り"にするのは、スカイマークの得意技でしたが、こちらはただの安売りではなくANA、JALに対抗する第三極だというプライドがあります。

LCCとは違うぜーとばかりに、座席を広くするなどの差別化を図ります。

ところが、中途半端な差別化では客を呼ぶことはできず、逆にコストの上昇を招いてしまいました。


■ここまでいうと、スカイマークがうまくいかなかった理由がわかりますね。

まずはポジショニングの設定ミスです。

大手2社が独占する日本の航空業界に風穴を開けるべく第三極たらんとする志はいいのですが、もともと大手2社の路線がくまなく飛んでいる日本の空に、なぜスカイマークが受け入れられたかというと、運賃が安かったからにほかなりません。

同じような路線で大手2社に追随する価格で飛ばしたら、それは顧客が集まらないでしょう。

スカイマーク側には、「自分たちはLCCではない」という思いがあったかも知れませんが、利用者はLCCだと見ています。

他のLCCと戦うなら、徹底して価格で戦わなければなりません。

座席を広くするとか、CAにミニスカを履かせるとか、戦う武器が間違っています。


■かといって他のLCCがうまくいっているのかというと、そうでもないのが、日本の航空ビジネスの難しいところです。

LCCというビジネスを最初に成功させたのは、アメリカのサウスウエスト航空です。

かの会社は、あえてニューヨークやロサンゼルスなど大きな空港を避けて、地方空港と地方空港を結ぶ路線に特化しました。

本来ならば、大きな空港をハブ(車輪の中心部分:拠点)にして、各地方と結べば合理的です。

列車でいえば、地方に住む人は、東京駅や大阪駅にいったん出れば、そのあと、どこへでも行けるわけです。

ところが、和歌山に住む人が、名古屋に行くのに、いったん大阪に出なければならないというのは、実は遠回りです。和歌山から直接名古屋に行く路線があれば便利です。

サウスウエスト航空は、そうした地方の人たちの需要に応えたわけです。


■当然、地方の需要というのは、都会よりも少ないわけですから数が稼げません。薄利多売をやりにくい。だからといって、高い運賃をとれば「やっぱり遠回りしてもいい」と言われてしまいます。

そこでLCCが生き残る絶対条件が、低運賃を実現するための低コスト運航となります。

サウスウエスト航空が低コスト化のためにやったのが

〇同一機種の使用。扱う飛行機が一種類だと、パイロットもCAも、対応が楽で、リードタイムなく運行できるようになります。人材育成費も下がります。

〇機内サービスの簡素化。食事もなし。席指定もなし。

〇乗務員の多能工化。清掃ぐらいはCAがやる。

といったことでした。こうした努力により、大手会社の半分から3分の1の価格を実現したといいます。

参考:スカイマーク破綻を招いた下手なモノマネ&広報、LCCで唯一ピーチ好調の戦略的理由
http://bit.ly/1OuGqaO

また坪効率を高めるために、席を詰め込んでいますから、大手よりも狭くなる傾向があります。

サービスもない。席も狭い。となれば、長距離を飛ぶのは厳しいので、短時間飛行が基本となります。いや、むしろサウスウエスト航空は、大手航空会社がやりたがらない短時間航路を積極的に運航しました

このように、他社が儲からないと捨ててしまった路線を低コストで運航して、小さく儲ける。というのが、LCCの方法論です。

小さく。といいましたが、競争のない環境では、低コスト化ノウハウの蓄積がそのまま利益につながります。事実、サウスウエスト航空の利益率は高いことで有名です。


■日本のLCCも、このサウスウエスト航空の成功パターンを踏襲しています。

機種は中小型機。席は狭い。指定席はない。あっても有料。機内サービスはない。あっても有料。ゴミはなるべく乗客に持っていかせる。

と、こう書けば、えらい貧乏くさいフライト体験になってしまいそうですね^^;

ただ成功した海外のLCCは、成功の秘訣は「コスト管理とホスピタリティ」と言っているそうですから、乗務員の力で、なるべく貧乏くささを感じさせないようにすることが重要であるようです。

そういえば、サウスウエスト航空のCAはフライト中「煙草は機外で喫ってください」とのたまうらしい。そうした会話のやりとりも、売りの一つとなっています。

あるいは欧州のLCCライアンエアなどは、席でオンラインカジノができるサービスを導入したと聞いたことがあります。(もちろん金を賭けます)

思えば、スカイマークのミニスカCAも、ホスピタリティの一環だったのでしょうか??


■それはともかく、電車や道路など交通網が発達している日本では、アメリカと同じやり方は通用しないようです。

日本には100近い空港があるそうですが、その多くは地元政治家のごり押しによって作られた需要の小さい地方空港です。

JALが破綻した要因の一つが、地方空港へいく赤字路線を、そうした政治家のさらなるごり押しで無理やり運航させられていたことだと聞いています。

そんな路線に参入して、LCCといえども、黒字化できるのか?

しかも日本の空港は、使用料、着陸料ともに、海外よりも割高に設定されていますからなおさらです。(無理に作ったところは、維持も無理やりです^^;)

かといって、電車や自動車との価格差を勘案すると、高い運賃設定はできません。

結局、利益を出すためには、ある程度の需要を見込める羽田や成田、伊丹や関空にからむ便を運航しなければならない所以です。


■スカイマークは、羽田便という最も需要の大きい航路枠をもらったので、一見、有利に思えますが、最初から激しい競争に晒されてしまいました。

競争相手がJALとANAだけならまだいいですが、LCCまで参入するとなれば、否応なしに価格競争になります。

いくら需要が大きい市場に参入したとしても、そこで大きなシェアをとれなければ、結局は生き残れない。というのは、ランチェスター戦略の基本ですよね。

その他、成田を拠点にするLCCが伸び悩んでいるのは、同じ理由です。


■それに比べて、LCCで唯一、調子がいいのが、ピーチです。

参考:ピーチとジェットスター、明暗分かれた3年
http://bit.ly/1Gx04fl

かいつまんでいうと、ピーチは、成田ではなく、関西空港を拠点にしました。

関空も赤字に苦しんでいたので、拠点としてくれるのは渡りに船です。関西の財界も大歓迎です。

関空のLCC専用レーンは、ピーチの独占となっています。つまり競争が緩やかな状態で、運航できているのです。

もちろん、成田便やましてや羽田便より需要は小さいですが、それでも関空発着便という市場で大きなシェアを占めることができるのは、経営に安定をもたらします。

しかも関空は24時間空港なので、成田よりも多くの便を飛ばすことが可能です。

ピーチは、関空での安定的な業績を基盤に、那覇空港を第2の拠点と位置づけ、アジア便の運航を拡大しようとしているようです。

勢いに乗っているようですが、無計画な成長ではなく、競争の少ない市場で安定的なシェアを得て、段階を踏んで拡大していることがわかります。


■そう考えると、スカイマークは、最初に羽田便という最も需要の大きい枠をもらえたことが、足かせになったと言えるのかも知れません。

ある程度の需要があるので、それなりの飛行機が必要になります。地方空港に路線を拡大しようとしても、その飛行機を維持するだけの需要がある路線でなければならないという制約ができてしまいます。

西久保氏が経営を引き継いでから、コストの低い機種にかえて経営が安定したかに見えましたが、再建されたJALやLCCとの競争が激化したことと、円安による燃料費負担増大に耐えられなくなったことで、好調は続きませんでした。

政府の方針に翻弄されたという不幸な一面はあるものの、スカイマーク側が安定的なシェアを持つ市場を作れなかったことも敗因の一つであることは間違いありません。


■もっとも、ピーチは、ANAの子会社ですから、激しい競争に晒されにくいという優位さを持っています。

業績が苦しい時期を親会社が支えてくれるという安心感もあるでしょう。

そのピーチとスカイマークを比べるのは酷かも知れません。

しかも、スカイマークは無借金経営だったために、サポートしてくれるべきメインバンクがなかったというではないですか。

どうもいろんな部分が裏目にでてしまったようです。

※ピーチ、バニラエア、スターフライヤーは、ANAの子会社。ジェットスターはJALの子会社です。


■生き残るために重要なことは「場所」と「能力」です。

場所とは、市場におけるポジションのこと。

能力とは、人材や販路や資金やノウハウなどのリソースのこと。

この2つは車の両輪のようなもので、バランスがとれていなければなりません。

スカイマークの場合、大手2社に比べて、資金的前提が薄い、ブランド力もない、人材も経験値も乏しい。。。明らかに能力において劣ります。

その能力の会社が、大手2社とまともに対抗しようとしては勝ち目はありません。

スカイマークが好調だった一時期、西久保社長は、大胆にもエアバスA380という大型航空機を6機も発注してしまいました。

大手2社に対抗する気まんまんな豪気さは西久保氏の特徴なのかも知れませんが、客観的にみて、自分の「能力」に見合う「場所」を分かっていないと言わざるを得ません。

結局、その6機の解約金が支払えなかったことが、今回の破たんの直接の要因となってしまいました。


■今回、民事再生法の適用を受けたので、いずれは再建されることでしょう。

スカイマークの現在の強みは、羽田路線を多く抱えていることです。国土交通省は、あくまで第三極として存続させたい意向ですから、この枠はそのまま維持されると思います。

ANAにしろ、JALにしろ、あるいは海外の航空会社にしろ、その枠だけは喉から手が出るほど欲しいはずです。

良くも悪くも、皆が欲しがるものをエサに、交渉していくことになるでしょう。

報道をみていると、JALとANA双方との共同運航という苦肉の策で当面は進めるようですが、条件が合うなら海外の航空会社と提携する手もあります。

いずれにしろ、いったんは、規模を縮小して、儲かる羽田路線だけに絞り込むしかありません。

まずは、そこで着実に利益を出せる体制にすることです。

ただし発着枠に頼るというのは、政府の保護の中にあるようなもので、いわば生かされている状態です。

慎重に着実にやっていかなければなりませんが、それでも早い時期に、スカイマークだけの居場所を見つけることが肝要です。

個人的には、スカイマークが独占している神戸空港を拠点に、戦略を組みなおしてもらいたい気持ちがあります。神戸は、スカイマークがなければ、廃港してしまうかも知れませんから。

ただ神戸空港で黒字を出すためには、相当のローコスト経営を強いられることになり、羽田路線とは全く違うビジネスになってしまいます。

ここでも羽田路線を持っているという呪縛がありますなーー;

だとすれば、今回、海外の航空会社と提携しておいて、特定の海外との羽田航路でシェアを得るというのが現実的なところでしょうか。そしていずれは羽田とをハブとしたアジアのLCCとして展開を目指していくわけです。

なんだか、羽田ありきの戦略で、つまらないですが、仕方ありませんね。


■ともかくも、今回を好機と捉えて、V字回復を成してもらいたい。

5年後、10年後には、破綻という苦しい時期があったから、今がある。といえるようになってほしいですね。

その鍵は「弱者の戦略」です。