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世界のボクシング関係者を驚愕させた6月7日の試合から数日、井上尚弥が、ついに、PFP(パウンド・フォー・パウンド)1位に選出されました。

PFPで1位になること


PFPとは、体重差がないと仮定して最も強いボクサーは誰か?を示すものです。

ボクシングは体重の影響が大きい競技なので、重量級と軽量級が実際に闘うことはありません。闘えば、重量級が必ず勝つでしょう。が、純粋にボクシングの技量で比較すれば、軽量級の選手の方が優れていると思える場合も多いわけで、それを具現化したのが、PFPです。

世界で多くのボクシングメディアが独自にPFPランキングを発表していますが、最も権威あるといわれているのが、老舗ボクシング雑誌である「リング」のPFPランキングです。

このリング誌PFPランキングで、井上尚弥が1位と認定されたのです。


これ、すごいことです。

サッカーでいえばFIFA最優秀選手、野球でいえばメジャーリーグのMVPに選出されるようなものです。

メジャーリーグの方は、大谷翔平がいち早くMVPに選出されましたが、それと同じぐらいの偉業です。

野球に比べるとマイナーな競技のため、知名度では大谷選手に劣るものの、世界のボクシング関係者のなかで、井上尚弥の名前は轟いています。

マイク・タイソンでさえ、井上尚弥を「とんでもない奴だ」と絶賛しています。

圧倒的な試合内容


日本人史上最高傑作と称される井上尚弥のことを日本人でいる私はよく知っているつもりでいましたが、それでも7日の試合は、想像の遥か上をいくものでした。

試合前、井上が負けることはないだろうと予測されていましたが、相手はボクシング殿堂入り確実だといわれるノニト・ドネアです。3年前の初対戦では、井上の右目を破壊し、判定までもつれこませた実績があります。

ドネアは今回も自信満々で「井上に罠をかける」と不気味なことを言っていました。ボクシング関係者の中にはドネア有利を指摘する声もあり、前評判ほど簡単な試合ではないと思わせたものです。

実際、試合でも絶好調時の動きを見せて、この試合にかける並々ならぬ意欲を見せてくれました。

しかし、井上の能力はそれ以上でした。

ドネアのいう「罠」とは、カウンターをとるための撒き餌のことだったと思われます。例えば、3年前の試合では、撒き餌としてボディを執拗に打ち、意識を下に向けさせておいて、顔面に左フックを叩き込みました。今回も、類似の作戦を描いていたはずです。

が、そんな意図は井上も先刻承知だったはず。圧倒的なスピードで相打ちさえも許さず、あげくは、カウンターをとりにきたドネアに逆にカウンターを叩き込んだのです。

1ラウンド終了間際のクロスカウンター(カウンターに対するカウンター)はあまりにも見事でした。日本の現役ボクサーが「漫画でしか見たことがない」と呆れたように言っていたのが印象的です。

この一撃でドネアは記憶を失ったことを後に述べています。「これまで受けた中で最も強いパンチだった」「気がつくとレフェリーがカウントしていた」「それで自分がダウンしたことを知った」

テンプルを打ち抜いたこのパンチの影響は甚大で、ゴングに救われてKOは逃れたものの、実質ここで勝敗は決したといっていいでしょう。


ここからの井上も完璧でした。

ドネアのパンチがまだ生きているとみたのか、無理に攻めようとせず、絶妙な距離からコンパクトなパンチを着実に当てていき、回復させませんでした。

ダメージの残るドネアとすれば、もはやパンチを振り回して一発逆転を狙うしかありません。それを封じるような攻めをされては、打つ手なしです。

2ラウンドは、殆ど残酷ショーのような様相になってしまいましたが、それは井上の攻め方が、あまりにも緻密で無慈悲だったということでしょう。

この完璧な試合運びを見せられては、PFP1位になるのも時間の問題だとボクシング関係者がコメントしていました。

変革期にあるボクシングビジネス


井上が所属するジムの大橋会長は「まさか自分が生きているうちにFPF1位の日本人選手を見るとは思わなかった」と述べています。

井上尚弥の並外れた能力があればこそですが、背景には日本人選手の海外進出が盛んになったことが指摘できます。

日本に経済力があった頃には、日本国内市場だけでボクシングビジネスが成り立ちましたが、今はそうではありません。日本のボクシング業界全体がグローバルなビジネスに取り込まれつつあります。

今回の試合も地上波放送はなし。アマゾンプライムの独占放送でした。

アメリカ主導のビジネスに取り込まれることに複雑な気持ちが無きにしも非ずですが、市場が広がった分、現場のボクサーの収入は増えています。

井上以外にも海外で活躍するボクサーは出てきていますし、海外のプロモーターも日本人に注目するようになっています。

井上に触発されて、才能ある次世代のボクサーが続々出てくることに期待します。これからのボクサーは海外進出ありきなので、井上以上に稼ぐ人が出てくることでしょう。ボクシングファンとすれば楽しみなことです。

ビジネスの形が変革するとき、いちはやくポジションを確保した者が生き残りやすくなります。いまボクシングビジネスはちょうど変革期にあるわけですから、各自がどう動くのかとても重要な局面だと思います。

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