rizap
(2018年11月29日メルマガより)



飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を加速させていたRIZAPグループに激震が走っています。

元カルビーの社長松本晃氏をCOO(最高執行責任者)として迎え入れたと思ったら、COOの職を解き、構造改革担当に異動。

同時に、今期159億円の黒字予想を、70億円の赤字に下方修正しました。

159億円からマイナス70億円とは、壮大な転落です。

いったい何があったというのでしょうか。



フィットネスジムは好調


RIZAPグループは、フィットネスジムのライザップを中核とする企業グループです。

「結果にコミットする」をうたい言葉に、理想の身体づくりを約束し、短期間で確実に成果を上げることを売りにしたジムが大ヒットしています。

広告宣伝がうまく、インパクトの強いテレビCMを大量に流して、知名度を高めてきました。

いま、ライザップのフィットネスジムは、営業利益100億円を上げる好調事業です。


もっともそこに一抹のうさんくささも感じます。

そんな短期間で痩せてもリバウンド必至だというのが常識だからです。

結果にコミットするといっても、一日でも達成したら後は知らん顔、リバウンドまで責任を持たないと言うんじゃないの?と疑ってしまいます。



無軌道な企業買収で非効率な会社に


しかし、ライザップの勢いは止まりません。2017年から2018年にかけて、企業買収を加速させ、85社の連結子会社を持つ一大グループに成長しました。

売上高は1000億円に届こうとしていました。

ただ、企業買収の無軌道ぶりがたびたび批判を浴びていました。

普通、企業買収は、自社の強みの強化や、シナジー(相乗効果)を効かせるために行うものです。

すなわち、ライザップというフィットネスジムの特徴を強化し、さらに成長させる分野の企業を選択しなければなりません。

ところが、RIZAPグループが買収する中には、本業に関連がないといわざるを得ない企業が含まれていることが指摘されてきました。

いくら儲かるからとはいえ、本業に関係のない企業を次々グループ化していったら、戦略立案や管理の方法がバラバラで、非効率極まりないことになってしまいます。

グループ経営とは足し算ではありません。シナジーが効く掛け算であるべきです。


ボロ会社を集めてどうするのか


もちろん瀬戸社長は「買収に一貫性はある」と言い続けてきました。それが客観的に理解できないだけでした。

だがそれ以上に懸念されてきたのは、RIZAPグループの買収する会社が、どうにも可能性の感じられない業績ボロボロの会社が多かったことです。

こちらも瀬戸社長は「RIZAPグループにはプロ経営者がたくさんいるので、赤字企業でもV字回復できる」と自信満々に語っていたものです。

本当にそれができたら凄いことです。日本中の赤字企業がライザップに助けを求めに来ます。まさに日本経済の救世主ですよ。

ところがそううまくいくわけもありません。誰が手をかけてもどうしようもないボロ会社はあるものです。


実体のない利益をあてにしたビジネスモデル


それよりも、批判されるべきは、割安購入益をあてにしたRIZAPグループの経営手法です。

IFRS(国際財務報告基準)では、帳簿上の価格よりも安く会社を購入できた場合、差額を割安購入益として、利益計上できるルールになっています。

帳簿上は10億円の会社を3億円で購入できれば、差額の7億円が利益計上できます。

ただこれは、帳簿上の利益というだけで、現金収入があるわけではなりません。あくまで、その会社の資産を10億円で売却すれば、7億円の差額がでるよね、という想定の利益です。

RIZAPの場合、近年は、利益の6割以上が割安購入益でした。

利益が出ているぞーと言っても、その6割は実体がない利益です。

しかも帳簿上の算定価格というのも怪しいもので、在庫や資産を厳密に精査すれば、算定価格が下がる可能性が大です。

事実、今回、RIZAPグループは、グループ会社の在庫資産が実際には市場価値がないものと認めて、大幅な修正を行いました。

これが赤字転落の中身です。いわば、一大グループの中身がスカスカであることが白日のもとに晒されたわけです。


株価の釣り上げが目的?


なぜこんな危うい利益計上を続けていたのか?

うがった見方をすれば、実体のない利益計上を続けて、株価を釣り上げてきたのではないかと思えます。

ボロ会社を買うのは、そのためです。ボロすぎて売値がつかないほどの会社なら買いたたけます。

帳簿上は、高めに算定しておけば、その差額で利益計上できます。

株価を釣り上げるだけ釣り上げて、経営陣は自己保有株を市場で売却して多額の現金を手中にし、後は野となれ山となれ、ということではないのか?

そうだとすると、相当あくどいやり方です。

RIZAPの経営陣の中に、そのような邪な考えを持つ人がいなかったのか、もう一度ガバナンスを見直していただきたいものです。


経済界にもファンが多い瀬戸社長


もっともRIZAPグループの代表である瀬戸健社長の悪評は意外なほど聞こえてきません。

このたび瀬戸社長が「連結利益230億円を超えるまで役員報酬を返上する」と発表したことで潔さと覚悟が評価されているほどです。


瀬戸社長は、24歳の時にライザップの前身である健康コーポレーションを創業しました。

当初の主業はおからクッキーの販売です。これが当たって、札幌証券取引所に株式上場を果たすほどになります。

ところが競争激化により売上が激減、倒産の危機に陥ります。美顔製品の販売で持ち直したものの、この経験が、瀬戸社長に「主業一つでは危ない」という危機意識を抱かせることとなりました。

ライザップのアイデアは自身が個人指導型のフィットネスジムに通って、計画的に痩せることができたことから発想されたらしい。

ここが、既存事業のパクリじゃないかという批判を浴びる部分です。

しかし、フィットネスジムを「自己実現ビジネス」だと再定義し、一大産業として構成した手腕は称賛されてしかるべきです。


瀬戸社長は、人柄のよさでも知られており、経済界に多くのファンを持っています。

カルビーをV字回復させ成長軌道に乗せたことで日本を代表するプロ経営者だと目されている松本晃氏も、瀬戸社長を絶賛するひとりです。

功成り名遂げた松本氏が、なんで好き好んでRIZAPグループに入るのか?とずいぶん話題になりましたが、本人は「瀬戸社長がいるから入ることを決めた」「瀬戸社長を一流の経営者にすることが私の役割」と言っていました。まるで、橋下徹を絶賛する石原慎太郎のようです。


プロ経営者が暴いた実態


その松本氏は、入社してすぐにRIZAPグループのビジネスの危うさを見抜きました。

無軌道な企業買収のおかげで、グループの財務状況はガタガタになっていました。

松本氏が主張したのは、今後の企業買収の凍結と主業であるフィットネスジムを中心とした事業の再構築(リストラ)です。

プロ経営者としては、当然の提言です。


ここに古参の経営陣との対立があったと言われています。

従来の経営陣は、いい会社ならこれまで通り買収してもいいじゃないかと考えたのでしょう。

しかし、企業買収を続けるということは、割安購入益をあてにしたビジネスを続けるということです。このまま破滅するまで、風船を膨らまし続けようという主張に聞こえます。

なにより85社もあるのに、その面倒をみる人材が、足りているというのでしょうか。

常識的に考えて、上場して12年ほどの会社に、それだけの人材が集まっているとは思えません。


ギリギリのところで方針転換


このたびの赤字転落は、瀬戸社長が、松本氏の提言を受け入れ、事業の健全化に本格的に取り組むことを決意した結果だといえます。

客観的にみれば、ギリギリのところで、RIZAPグループは健全化への舵を切り、破滅への道を逃れたわけです。

フィットネスジムが100億円の営業利益をあげているうちに、何としても財務の健全化を成し遂げなければなりません。

その意味でも、松本氏がRIZAPグループに入ったことは、非常に大きな意味があったことだと考えられます。



松本氏の構造改革は機能するのか?


しかし気になるのが、松本氏がCOOの職を解かれて「構造改革担当」になったことです。

瀬戸社長「構造改革に専念してもらうから」

松本氏「肩書はどうでもいい」

と言っていますが額面通り受け止めていいのでしょうか。

COOは、形式的にもナンバー2の立場でした。

ところが、構造改革担当という役職には、実質的な権限があるのでしょうか?

報道によれば、松本氏がRIZAP以外の任務を抱えており、毎日出社できるわけではないとも聞こえてきます。

そのあたりでも、既存の経営幹部との軋轢があったのかも知れません。

もし対立や軋轢が解消されず、構造改革が骨抜きにされたのだとすると、RIZAPの健全化にも暗雲が立ち込めます。


思えば日産自動車をV字回復させたカルロス・ゴーン氏も、派閥やしがらみでがんじがらめになった組織を動かすために、若手社員を組織横断的に集めて、事業再構築のためのチームを作りました。

今回の松本氏は、そこまでの権限を与えらえているのでしょうか。

どうも人のいい瀬戸社長だけに、事業再構築への厳しい道のりを完遂できるのか、まだわからないと思えます。