■日本交通の3代目社長に関する記事です。

川鍋一郎氏。あだ名は、タクシー王子。幼稚園から大学まで慶応義塾。米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得。マッキンゼー日本支社勤務経験あり。イケメン。

絵に描いたようなエリートです。

が、日本交通に入社後は、実践経験のなさから「アメリカ帰りのエコノミスト」と揶揄されます。社員から総スカン状態で、新規事業を手掛けるも失敗してしまいます。

■これも絵に描いたような挫折ですね。確か星野リゾートの社長も同じような挫折経験者だったはずです。MBA仕込みのビジネス知識をもって経営に臨もうとして、社員から総スカンを食ったんですよね。

ここからの復活も似ています。社員を尊重し、同じ目線で経営に臨むことで、徐々に協力を得られるようになり、会社が機能しだします。

日本交通の川鍋社長は、タクシー乗務員をしながら、現場経験を積んでいきます。当初は社員から「点数稼ぎ」「悪ふざけ」などと非難されます。が、その下積みの日々が、彼にとってのリハビリだったのでしょう。

会社も借金が多く、攻めに転じるような状況ではなかったようです。出血を止めるためのリストラ策に追われる毎日でした。

■この記事の後編では、リストラも一段落し、攻めに転じる様子が描かれています。基本はアプリなどスマホやITの技術を活かした戦略方向性を打ち出しています。

それが成功するか、しないかは、今後もう少し様子を見ないとわからないのでしょう。しかし、借金だらけでどうしようもなかった会社が、攻めの施策に転じることができたわけですから、現社長の功績は大きいということです。

つまり、現場を知らないうちは、その知識も役に立てることができなかったのですが、実戦経験を積んだのちは、その知識が役立っているわけです。

■この事例は示唆に富んでいます。

経営に必要なのは「ポジション」と「リソース」です。いいかえれば、戦略方向性と従業員の参加です。戦略だけ先行したら絵に描いた餅になりますし、従業員がやる気を出すだけだとエネルギーが分散してわやくちゃになってしまいます。

そのあたりのところ、川鍋社長も星野社長も両方を機能させる方法をとっているのでしょう。

■戦略方向性を出すことなど実は簡単です。自分でできなければ専門家を雇えばいいだけです。

しかし、従業員の気持ちをつかんで参加を促す。従業員が組織に貢献しようと思う。そんな組織にすることは、簡単ではありません。便利な手法は今のところ開発されていないはずです。