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外食チェーン大手のワタミが、焼肉店の値下げを発表しました。値上げ要素しかない社会情勢ですが、堂々と逆張りです。他の飲食店、とくに焼肉屋さんは、なにすんねんと憤っていることでしょうな。

ただ、値下げするのは全体の20%だということですから、実質はどれぐらい影響があるのでしょうか。販促程度のものかも知れませんが。

総合居酒屋に見切りをつけて再建中


ワタミの2021年3月期の売上高は608億円、年々下がり続けています。当期純利益はマイナス115億円。こちらも3年連続悪化しています。

直近の業績低迷はコロナ禍によるものですが、実際には、それ以前から徐々に業績は降下してきていました。コロナが拍車をかけたかっこうです。

そこでワタミ代表で創業者の渡邉美樹氏は、総合居酒屋からの脱却を進めました。2021年3月期の店舗内訳は、から揚げ居酒屋ミライザカが121店、鳥メロが120店、焼肉の和民が23店など。焼肉店は、120店まで増やすとしています。かつての居酒屋和民は既に撤退しており、やると決めた時のスピードはさすがです。

ただ、店舗の入れ替えには費用がかかるので、利益が出ません。ワタミ全体では、宅食事業が売上を伸ばし利益を上げているものの、主力であるはずの外食部門は売り上げも小さく、赤字となっています。

ワタミが焼肉屋に着目した理由


ワタミが焼肉屋に目をつけたのは、非接触にしやすい運営形態がコロナ禍の時流に合っていたからだとしていました。実際、同社店舗では、回転寿司のような自動レーンで焼肉を運んだり、配膳ロボットを採用したり、人手のかからない方策をとっています。

焼肉屋は、客自身が肉を焼くスタイルなので、そこでも人手がかかりません。従業員を働かせすぎて問題を起こしたワタミとすれば、人員の扱いは最重要課題になっていたことでしょうから、その意味でも、焼肉屋は適切な形態です。

もうひとつ、焼肉屋は、客単価が高く、大人数になりがちなので、売上を大きくできるというメリットがあります。初期の設備投資はそれなりにかかりますが、一度整備してしまえば、人手もかからず、売上も大きい。従業員一人当たりの売上高が大きいビジネスです。

ただし、固定費が大きい分だけ、損益分岐点が高く、利益が小さくなってしまいます。

ワタミの場合、牛肉の生産者と共同会社を作り直接仕入れる仕組みを作っているので、他の小さな焼肉屋さんと比べると、原価が抑えられているはずです。利益もそれなりに確保できるでしょうが、それでも限界があります。

新規参入を阻止し、早期に市場シェアを確保したい


そんなワタミが、焼肉の値下げをするというのだから、業界はざわつくはずです。

焼肉屋のメリットは他の飲食チェーンも知っていることですから新規参入が増える可能性があります。ワタミとすれば、競争激化してレッドオーシャンになる前に、低価格戦略をとり新規参入を抑えつつ、市場シェアを確保しておこうという算段なのでしょう。

外食産業は既に飽和状態であるといわれ、既存店舗の売上高は減り続けています。インバウンド需要が頼みの綱だったこともありましたがコロナで瓦解し、あてにすることはできません。

借入金の多いチェーン店は、金融機関の手前、この状況下でも新規店舗を作って売上拡大を目指さざるを得ません。本当は値上げして利益を確保したいのでしょうが、そんなことをすれば、顧客からの支持を失い、市場からはじきとばされるかもしれません。

儲からないのにさらに借り入れをして売上拡大を目指すという地獄のチキンレースです。

こんな市場ですから少しでも隙間があれば皆が入り込んできて、埋めてしまいます。流行る店があれば、類似店舗が後追いでできるのが以前よりも早いのはそのためでしょうな。

比較的価格対応力があるワタミが、先行して値下げを表明したのは、消費者に対するアピールであると同時に、「焼肉店は決しておいしい市場ではないよ。新規参入はやめときなよ」という事業者へのメッセージもあるのでしょう。

思惑が外れれば苦しい状況に


もっとも、これはワタミにとってもリスクのある戦略です。一度値段を下げたら、値上げは容易ではありません。いきなり!ステーキなど初期の大盤振る舞いをじわじわ修正していったのに、高い、と評判が立ち、客足が遠のきました。

市場シェアさえとれれば、薄利でも利益を確保できるのでしょうが、地位を確保するまでは苦しい時期が続きます。思惑が外れて、強いライバルが現れれば、さらに厳しい競争状況に陥ります。まさにチキンレースに自ら突っ込んでいったようなものじゃないですか。

いやいや、ワタミは、効率的な運営の仕組みを開発したのだから、今回の値下げぐらいどうってことない、根拠のある低価格戦略だ、というなら立派ですけどね。

日本の飲食業は人件費がかかりすぎて利益が出せないというのが、欧米と比較しての課題として挙げられてきました。人の問題で苦しんだワタミが、それを解決して、欧米と肩を並べるような利益を確保できたとしたら、それは見事な成功事例となります。


まあ、こういうことをブログに書くこと自体、ワタミの販促に乗っかっているのでしょうね。代々的に発表した値下げがどれほどの影響を持つものなのか、続報を待ちたいと思います。