私事ですが、経営コンサルタントとして独立してから今年で14年です。
法人を設立してからは、12年になります。
気づいたら、けっこう長くやってきたんだなと思います。
経営コンサルタントとしてなんらかの形で関わった会社や事業者は、300社ぐらいだと思います。
そのすべてがコンサルとして大成功を収めたとは言いませんが、その都度、その都度、誠実に、一所懸命に取り組んできました。
自分がベテランだとか、それなりの地位があるとか言うつもりは毛頭ありませんが、自分なりのコンサルティングのスタイルや方法論は持ちつつあるのかなと考えています。
自信を持って始めた仕事ですが、やはり10年以上現場を経験しないとわからないこと、身につかないこともあるのだなと感じています。
「あなたは幸せになりたいですか?」
14年前、あるベテランのコンサルタントの助手を務めさせていただいたことがあります。(管理体制構築のコンサルタント)
とても穏やかで性格のいい方で、独立したばかりだから勉強したいという私を快く受けてくださったのです。
コンサルティングにおいても、上から目線で自分の考えを押し付けることは一切なく、皆を粘り強く巻き込むスタイルでした。
特徴的なのは、いちばん最初、社員の方が集まった時に「あなたは幸せになりたいですか?」「どのように幸せになりたいですか?」と質問して回ったことです。
およそ2時間。「会社活動における自分の幸せとは何か?」について、考える時間をもったのです。
それどころか、次の回も、その話題を繰り返しました。
「この会社で働いて、どのように幸せになれるのだろう?」と徹底して考える機会を作りました。
その会社の社長の顔には「貴重なコンサル時間を使って何をやっているんだ」と若干イラつく感じがありましたが、お構いなしでした。
対症療法では会社はよくならない
正直に言って、私も多少、引いてしまいました。
失礼な言い方ですが、そのやり方がなんとも“かったるい”ものに思えたのです。
経営理念やミッションの重要性はわかりますが、もっとシャープに、スマートにできるのではないだろうか?
案の定、その方のコンサルティングは、遅れに遅れ、予定の期間を倍以上もかけて行うことになったようでした。(最後までは参加しませんでした)
私も若かったです…
というのは、今では、その方の方法論に共感する部分が多いからです。
私の場合、営業に関するコンサルティングが多いですから、実践的なことを要求されます。
売上を上げたい、利益を上げたい、営業目標を達成させたい、営業マンの能力を向上させたい、そのための処方箋を求められます。
求められたことに逸脱せずに応える。というのは自然なことです。
しかし、実際のところ、処方箋は対症療法に過ぎません。求められることに表面的に答えているだけでは、先方からのクレームはないでしょうが、根本的な解決には至りません。
例えば「地獄の特訓」的な取り組みで一時的に行動量を増やして売上高を上げても、それはドーピングを打ったようなもので継続性がありません。
それは経営について学んだ者がすべて理解していることのはずです。真因は常に見えないところ、深いところにあり、そこを治療しなければなりません。
だからコンサルタントになりたての頃は、顧客の要求から逸脱しないように工夫しつつ、いかにして根本原因を突き止めて治療を施すか、そのせめぎ合いに苦労しました。
なかには「言われたことだけ応えていれば、根本的な原因は残ったままだから、仕事がなくならなくて好都合だ。しめしめ」と開き直るコンサルタントがいるかも知れません。実際いるでしょう。
そんなふうに開き直れたら楽でしょうね。
そんな職業的良心のないコンサルタントに比べて、社長の意向を無視してでも、根本的な取り組みをしようという先のベテランコンサルタントの姿勢は真摯です。
その方のコンサルティングは、いつも時間がかかることで知られていました。時間がかかり過ぎると途中で契約を打ち切られることもあったそうです。
しかし、というべきか、だから、というべきか、出来上がりの満足度は高いものとなります。
私が助手をさせていただいた会社のコンサルも、最後の満足度、社員の一体感は、相当のものがあったと聞きます。(最後までは関われませんでしたが)
あれから10数年が経ち、いまでは、そんな方から学ぶ機会を得られた私は本当に幸運だったと思っています。
人生の目標と会社目標をリンクさせる
その方が「幸せ論」などという抽象的な討議を繰り返す意図は明確です。
経営の方向性と個人の人生の方向性をリンクしてもらおうという取り組みです。
組織のメンバーが一致団結した時のエネルギーは凄まじいものがあります。
そのためには、会社の発展と個人の幸福が一致していることが望ましい。
強制したり洗脳したりして一方を向かせるのは、まさにブラック企業で個人の幸せを摘み取ってしまいます。だからその方は自然に皆が納得して目標を見定めるように、幸福論を討議するわけです。
そういうやり方を“かったるい”と感じるのは私だけではないでしょう。メンバーの多くが、なんで道徳の時間みたいなことに付き合わされるんだ、という顔をしています。
ただここでブレてはいけません。コンサルタントが本気で幸福論を語り続ければ、それが真摯であることが伝われば、やがてメンバーは巻き込まれていきます。
社員の方々が本気で自分の人生と会社を結びつけて考えるようになれば、それでコンサルティング目標の半分は達成したようなものです。
逆に、会社の在り方に共感を覚えないメンバーが多くいると、組織はパワーを発揮できません。1+1=2どころか、0.5とか0.3になってしまう場合があります。
まずは会社と人生を結びつけて考えることが出発点です。
「動きたくない」人を動かす
私は営業に関するコンサルティングを主に生業としている者です。
売上向上、利益向上、営業目標達成、営業力強化、こうした内容に取り組んでいます。
ランチェスター戦略や孫子の兵法は、営業支援に役立ちます。孫子の兵法は、根本的な思想や姿勢を教えてくれますし、ランチェスター戦略はより具体的に市場を攻略する方法を示してくれます。
しかし、それが機能するためには、営業担当者をはじめとするメンバーが、会社の方向性を理解し、貢献しようとしていることが前提となります。
そもそも営業担当者には経験主義者が多く、自分が現場で経験したことしか信じようとしません。それが良い時もありますが、悪い時もあります。
これまで経験したことがない戦略や営業方法を試そうとしても、まずは反発します。外部のコンサルの言うことなど信じていません。
それがいい意味での「現場主義」の現れなら議論の余地もありますが、今さら新しいことをするのは面倒臭い、会社の発展よりも個人の楽を優先させるという考えに結びついているならば聞く耳を持っていないので、厄介です。
ランチェスター戦略がどんなに優れていたとしても、それを受け取る者が現状維持派であれば「なんか珍しい手法らしいけどうちの会社には合わないね。今まで通りやればいいやん」で終わってしまいます。
もっと悪い時には「このコンサルがいる間はやるふりをしておこう。いなくなれば元に戻せばいいや」というメンバーもいます。
コンサルというのは常にそういう「動きたくない」人とのぶつかり合いです。
コンサルタントは、どのように人を動かしているのか?
基本的には2つの方法があります。
一つは、コンサルタントが得意な手法をまず導入し、実績が上がるのを見せ、メンバーの信頼を獲得したうえで、根本的な戦略や仕組みの構築に取り組む方法。いわゆる対症療法から入って根本治療に至る、入り口は易しいが奥に進むのが難しい方法です。
もう一つは、最初から社員が混乱するのもお構いなしに「幸福論」や「人生論」など人間の本質的なところに踏み込み、充分に巻き込んだうえで、根本的な経営改革に進む方法。入り口は抵抗されますが、一度受け入れられると、後は易しい方法です。
どちらに取り組むかは、それぞれのコンサルのやり方です。私もコンサル機会によって使い分けています。
いずれにしろ、困難な部分に踏み込んでいかなければ会社はよくなりません。そして最も困難な部分は、表面からは見えない部分にあるので、一筋縄ではいかないことを知っておかなければなりません。
見えない強みを理解する
どんな小さな会社にも強みがあります。
強みが機能しているから、今まで生きてきたわけです。
中小企業は、その強みを磨き、強みが活きる市場を見つけて、そこに一点集中することが基本戦略です。
そしてその集中した市場においてトップ企業になることができれば、生き残る可能性が格段に高まります。
そこで重要なのが、強みは表面に見えているだけのものではないということです。
例えば商品開発力がある。という会社があるとします。
開発力があるのは素晴らしいことですが、その開発力はどこからきているのか?
おそらく、開発する人材、その人材の採用教育育成がうまくいっているという背景があるはずです。
あるいは研究開発する設備や予算。
開発を後押しする社内の風土やチャンレンジ精神。
社内に蓄積された開発ノウハウや知的財産権。
社内社外のネットワークも重要でしょう。
こうした背後のつながりや結びつき、蓄積が重なって、今現在の開発力に結実していると考えられます。
もし、今の開発力が、特殊な天才の力によるものだとすれば危険です。その人がいなくなれば、開発力という強みが霧散してしまいます。
もし強みが消えたり劣化したりすれば、基本戦略そのものの前提が崩れます。
そんなことのないように、今の強みを支える背後のつながりや構造を理解し、補強しておかなければなりません。
コンサルタントに依頼したくなるような状態の時は、たいていこの見えない背後の部分が弱体化しています。
ここに到達し、明らかにできるか否かが、コンサルタントの優劣を分けることになるでしょう。
そのためには、深いところまで開示できるように社員を巻き込むことが必要になるのは自明のことです。
地味で目立たない人の中にこそ優秀なコンサルタントがいる
先にあげたベテランコンサルタントの方ですが、実はいまも元気に働いておられます。
地味で目立たないこういう人たちの中にこそ、本当に優秀なコンサルタントがいるのだと思います。
むしろ派手なパフォーマンスや実績を誇示する人の仕事内容をみて首をかしげることが多くありました。
私が関わった多くの中小企業の人たちは、真面目で誠実な方々でした。
社長だからと言って、わがまま放題で勝手なことばかりしている、というドラマに出てくるような土俗的な人はいません。(いや一部いますが)
多くの社長は、顧客のこと、得意先のこと、社員のこと、その家族のことを真剣に考える人たちです。
引退したくてもできないのは、そうした関係者のことを考えると、後継者に任せるのに不安があるからです。
そうじゃないと、退職金だけもらってさっさと引退して悠々自適の生活を送ればいいわけです。
いま日本の経済社会を支えているのは、そうした多くの善良な中小企業の人たちです。
そうした方々に関わる私たちコンサルタントも、善良で誠実で粘り強く取り組む者でなければなりません。
そうした方々が心安らかに過ごせるように支援することが、コンサルタントの存在意義だと考えています。