人口減少問題


日本はいずれ存在しなくなる?


先月はじめ、世界有数の起業家であるイーロン・マスクが、ツイッターでつぶやいたことがニュースになりました。


テレビなどでも採り上げられた話題なので、ご存知の方も多いでしょう。

マスク氏は、つぎのようにつぶやきました。

「当たり前のことだけど、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう。これは世界にとって大きな損失になる」

ずいぶん極端なつぶやきですが、言いたいことはわかります。

現在、日本は少子高齢化、人口減少が加速しており、このままの数値が続けば、計算上、日本人はいなくなってしまいます。

もちろん、このままの数値が続くわけがありません。いずれ人口バランスが適正化し、人口減少は止まります。

しかし、人口減少の勢いがあまりにも急激なので、問題は多い。マスク氏は、そうした事態を放置する日本をはじめ先進国政府に警鐘を鳴らし続けています。


世界が人口減少期に入る


総務省の推計によると、日本の人口のピークは2004年の1億2784万人です。

そこから人口減少が始まり、2050年には1億人を、2100年には5000万人を割り込むとしています。

明治維新の頃が3330万人といいますから、200年かけて明治時代の人口に戻るという計算です。


これは日本だけの現象ではありません。世界の先進国ではいずれも少子高齢化が進んでおり、人口減少期を迎えています。

それだけではありません。米ワシントン大学の推計によると、アジア、アフリカを含めた世界全体の人口が2064年をピークに減少に向かうというではないですか。

約200年続いた人口爆発期が、急激な人口減少期に移行するというのは、世界共通のトレンドなのです。


人口が少なくなるメリット


人口が減っていいこともあります。

とりあえず危ぶまれていた世界レベルの食料危機は回避されそうです。昆虫を食べる必要もなくなりそうですよ。

人が少なくなれば、環境問題も軽減されます。持続可能な開発という問題は自然に達成されていくかもしれません。

このまま経済格差もなくなり平和な世の中がくればいいなあとお花畑的な夢想をしたくなりますな。

もしかしたら2100年以降、人口バランスが適正になった時代からは、いい世の中になっていくのかもしれませんね。


経済破綻の末、日本が消滅する?


しかし、そこに至るまでが大変です。

なにしろ一度増えた人口が減る時のマイナスのエネルギーは半端ありません。

少子高齢化が進むということは、高齢者に比べて生産年齢人口が減るということです。

当然、GDPも税収も減ります。

高齢者福祉費は増大するのに税収が減り続けるのだから、その他に回すお金がなくなります。

例えば、地方のインフラを整備する余裕はありませんから、地方都市の多くは廃墟のような状態になってしまいます。

がけ崩れの道もそのまま、電気も水道も安定しない、ごみも回収されない、警備も弱い、ネットもつながらない場所で、いまさら生活できるでしょうか。

そうなると、都心部に人口が集中し、今よりもむしろ人口過密状態になります。住宅費は高騰し、地方から来た人たちは行き場がなく、大規模なスラム街が形成されるかもしれません。

防衛費も減らさざるを得なくなります。

今回のロシアの侵攻は、人口減少による国力低下の危機感が引き金になっているとする分析があります。

それを思うと、日本が経済破綻した末に、どこかの国に併合されてしまう悪夢のシナリオだってないとは言えません。そうなると、本当に、日本が存在しなくなってしまいますね。


少子化を食い止めたフランスの社会改革


人口減少は避けようがありませんから、少しでもその痛みを和らげる対策が必要です。

一般に、人口減少を食い止めるには、移民を受け入れるか、出生率を上げるかです。

しかし、世界中の人口が減ると、移民そのものも減っていきます。短期的には移民受け入れは有効ですが、抜本的な解決策にはなりません。やはり出生率を上げて減少のスピードを遅くすることに取り組むことが肝要です。

日本の場合、合計特殊出生率(一人の女性が一生で産む子供の数)は1.4程度です。

これに対して、20年以上この問題に取り組んできたフランスは、出生率を2程度にまで引き上げることに成功しています。

詳しくは述べませんが、フランスの対策は、結婚や就業に関する男女格差を是正し、女性が出産・育児に向き合っても損をしない制度作りに力点を置いています。

例えば、フランスでも、結婚は神聖なもの、妻は夫に従うもの、家事は女性がするもの、という意識があったようで、キャリア志向の女性にとっては結婚も出産も損なことでしかありませんでした。

それを是正し、結婚しなくていいですから好きな時に子供を産んでください、経済負担はできるだけ国が負います、育児休暇はキャリアのマイナスにさせません、婚外子を差別させません、という制度に変えたことが、現在の出生率につながりました。

フランスのやり方を日本も大いに参考にするべきです。

が、生まれてくる子供の6割が婚外子だというフランスの状況を受け入れるためには、日本人に馴染んだ戸籍制度や家制度の概念を根本から改める必要があります。これを嫌がる人たちが日本には大勢いるのですんなりとはいかないでしょうが。


日本人の半数が逃げ切れる


少子高齢化問題に対しては、一部諦めムードが漂っています。

この問題に真剣に取り組む政治家を見たことはありませんし、選挙の争点にもなりません。そんな遠い未来のことよりも、いま、得になることをしてくれよ、という意見が殆どです。

じたばたしても止めようがないし、なるようにしかならない、日本人は優秀だからいざとなれば何とかするよ、というのがマジョリティの考えなのでしょうね。

でも、気を付けてくださいね。いま、生きている人の半分近くは、この問題が深刻化する前に逃げ切る(あの世に逝く)人たちです。

私もそうです。成長期の恩恵を食いつぶして逃げ切る世代の一人です。

そんな私が言うのだから自己矛盾ですが、老人の余裕を信じてはいけません。

これ、放置していたら、どえらいことになりますよ。


小さくても行動することが大切


思えば、この件、ピーター・ドラッカーが20年前に「すでに起こった未来」として論文に書いていたんですよね。

日本人の半数は逃げ切れると言いましたが、実際には、既に社会のあちこちに影響が出ており、企業は自身が生き残るために対応しています。

ビジネスで起きていること、企業の統廃合も、戦略転換も、新事業の立ち上げも、ほぼすべてが、少子高齢化や人口減少が背景にあると言ってもいいでしょう。

企業は、生き残るのも潰れるのも自己責任ですから必死です。

生活者は自己責任ではない部分もありますが、一人一人同じように真剣に行く末を考え、行動することが必要だと思います。

といってもできることは限られています。

まずは、少子高齢化と人口減少がどえらい重大な問題であることを理解すること。

できるだけ世の中の動きや変化を見て、影響がどの程度出ているかを認識こと。

そして、問題の深刻さを自分なりに発信し、投票行動で政治家を動かすこと。

小さくても行動することがとても大切です。

逃げ切り世代の一人として、罪悪感を少しでもやわらげるために行く末を憂うふりをしているだけかもしれませんが、この問題はしつこくとりあげていきたいと思います。