youyubeさえ時代に遅れる


(2021年6月10日メルマガより)



最近、ユーチューブが、やたら有料会員を勧誘するような動きに出ていて、これが、自社のビジネスモデルを否定しているのではないかという記事がありましたので、紹介します。


ユーチューブプレミアムとは、月1000円超の有料サービスです。会員になれば、動画に掲載される広告がなくなるそうです。

確かに、ユーチューブを観ているとその広告の多さに辟易します。動画が始まる前や動画の途中、容赦なく広告が挟まれます。

字幕が入る画面下あたりにも、広告が表示されて迷惑極まりない。

何とかならんのかー!と誰もが思うでしょうから、お金さえ払えば広告を消すよというサービスは、的を得ています。

それにしても月1000円超というのは考えどころです。ユーチューブをやたら観る人は価値があるでしょうが、それほどでもない人にとっては、高いと感じるはずです。

1000円超といえば、ネットフリックスの最低月会費より高い。アマゾンプレミアムの倍以上です。

ネットフリックスやアマゾンプライムならば、プロがコストをかけて作った映画やアニメを膨大に鑑賞することができます。

が、ユーチューブはもともと素人が退屈しのぎに作った動画を観るところじゃないのか?そんなものに月1000円もかけてられるかーと思う人も多いでしょうね。

しかし、今や、ユーチューブもプロやセミプロが動画を投稿する場所となっています。ユーチューバーなんて、それを生業にしている人がいるぐらいです。

おかげで、素人が適当な動画を上げたら、コメント欄にボロクソ書かれたりして、びっくり仰天してしまう場合もあるようです。もはや素人の遊び場ではないのですかね。

もしかすると、有料サービスを作ることで「広告ばっかり入れやがってウザイんじゃー」というユーザーの気持ちを「無料なんだから仕方ないな」と転換させようという意図があるのかもしれません。


広告収益モデルからの脱却を目指すユーチューブ


ユーチューブを運営するアルファベット(旧グーグル)は、検索エンジンを梃子に、広告収入モデルを突き詰めて、今の地位を築き上げた企業です。

グーグルといえば広告収入モデル。広告収入モデルといえばグーグルです。

そんなグーグルが、2006年に買収したのがユーチューブです。グーグルは、ユーチューブにも高度な検索機能と広告配信機能を埋め込み、現在の高収益企業に育て上げました。

上の記事によると、2021年はユーチューブ単体で3兆円超の収益を見込んでおり、ネットフリックスを凌ぐ勢いです。

そんなユーチューブが、今さら、広告収入というビジネスモデルを捨ててまで、新たな収益モデルに移行しようとするでしょうか。

ただ、最近のユーチューブ側の、有料会員推しは、かなり本気度が高いと思うのも事実です。

確かに動画に挟まれる広告はウザイ。ウザイ。ウザイ。いいところで挟まれる広告にはほんとにガックリきます。

広告主も、そのウザさを理解すると、ユーチューブに広告を入れようなんて、思わなくなるかもしれない。

ユーチューブとすれば、いつまでも広告収益モデルを続けていたら、将来は危ういと判断したのかもしれません。

そのための壮大な試行なのだとすれば、アルファベットの自己変革性は、大したものだと思います。


動画配信ビジネス暫定1位のネットフリックス


ネットフリックスは、有料会員2億人以上を誇る世界最大の動画配信サービスです。

コロナ禍の巣ごもり需要が追い風となり、ここ最近、さらに会員数を増やしてきました。

直近の決算も絶好調です。売上、利益とも過去最高。ただし、会員数の増加ペースは鈍っており、株価が低迷しています。

業績過去最高なのに株価が低迷するというのも厳しい話です。が、それだけ、動画配信サービスの競争は激しく、トップ企業といえども気が抜けない状況が続いています。

なにしろ、動画配信サービスは、差別化しにくいビジネスです。

映画やドラマ作品を買ってきて、配信する能力さえあれば、誰でもできます。

だからこそ、ネットフリックスは世界に先行展開して、シェアトップの地位を盤石なものにしようと走り続けています。

ただ、ここでも立ち塞がるのは、破壊者アマゾンです。これまで、数々の業界を破壊してきたアマゾンが、動画配信サービスにおいても、低価格攻勢をかけて、2億人近い会員数を獲得、ネットフリックスに迫っています。

さらに巨大コンテンツ企業のディズニーも、ディズニー+という動画配信サービスを開始し、わずか1年で、1億人以上の会員を獲得しました。

ネットフリックスとすれば、全然安泰なトップではありません。

そこで、今取り組んでいるのは、他では観られないオリジナル作品を増やして、作品で差別化を図ることです。世界中の映像制作者に投資して、オリジナル作品を猛スピードで増やしています。

だから、儲けたお金は、作品への投資に回すという自転車操業状態が続いており、しばらく抜け出せそうにありません。


アマゾンは大型買収で動画コンテンツを充実させる


余裕綽々なのがアマゾンです。

このたびアマゾンが、老舗映画製作会社のMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)を約9200億円で買収するという報道がありました。


MGMは、1920年代から活動するハリウッド黄金期を支えた映画会社の一つです。

もちろん制作した映画も膨大ですが、テレビの時代に対応できずに経営悪化、多くの作品の権利を売り払ってしまいました。

それでも、「007シリーズ」や「ロッキーシリーズ」など多くの人気作品を持っています。

アマゾンは、MGMそのものを買収し、4000本以上の映画と多くのドラマ作品を手中にします。

これら作品は、アマゾンプライムビデオのラインナップに加えられることとなるようです。

約9200億円とは、スケールの大きい買収ですが、時価総額177兆円を超えているアマゾンからすれば、何でもない買い物なのかもしれません。

そもそもアマゾンプライムビデオとは、有料会員アマゾンプライムのサービスの一つという位置づけです。

ネット通販を主業にするアマゾンは、一回一回の取引収入では経営が安定しないと考え、継続的な収入確保の手段を模索してきました。

これは創業当初からの課題です。創業者のジェフ・ベゾスは、コストコの会員制度を参考にして、アマゾンプライム制度を発想したといわれています。

ちなみに、日本では年間5000円程度払えば会員になれます。アメリカでは1万円以上するそうですが。

最初のサービスは、プライム会員ならいつでも送料が無料になるというものでした。

が、アマゾンは、サービスを次々と付加し続け、お急ぎ配送便無料、衣服の試着無料、動画見放題、音楽聞き放題、電子書籍読み放題、写真用5ギガストレージ無料など、てんこ盛り状態にしていきました。

とくにアマゾンプライムビデオは、15000本以上の映画やアニメ、ドラマが見放題となる本格的なサービスです。

アマゾンオリジナルの作品もありますし、追加料金を払えば、他社の作品も視聴できるオプションもついています。

そこにMGMのコンテンツが加わるのですから、ライトな映画ファンなら、アマゾンプライムビデオで充分に満足できます。

サービスの一環という位置づけなのに、この充実度は何それ?とライバル会社は言いたくなるでしょうな。

ただ、アマゾンは、MGMが持つ映画館とのつながりも利用して、動画配信と劇場公開を併合したビジネス展開を考えているといわれています。

これまで何度も業界をかき回してきたアマゾンですから、映画産業にも巨大な隕石を落とすのではないかと期待されます。


成長初期を迎え動きが激しくなる動画配信ビジネス


ネットフリックス、アマゾンプライム、ディズニー+が、世界の動画配信トップ3です。

この他にも、Hulu、HBOマックス、アップルTV、パラマウント+などがあります。

最近では、HBOマックスを傘下に持つ老舗映画会社のワーナーブラザーズが、ケーブルテレビのディスカバリーチャンネルとの統合を発表し、話題となりましたが、こちらも動画配信ビジネス拡大展開を睨んだ動きです。

テレビからネット、テレビからスマホという流れに伴い、動画配信ビジネスは、拡大していくと考えられます。

とくに有料ケーブルテレビが発達しているアメリカにおいては、安価な動画配信サービスに切り替える流れが勢いを増しています。

無料の地上波テレビが普及している日本では、様相が違うという意見もありましたが、動画配信サービスの会員数は順調に増加拡大しているようで、その流れは変わりません。


動画配信ビジネスは、黎明期から成長期にかかったあたりであり、勝負はこれからという産業です。

暫定トップのネットフリックスとすれば、このままトップを突っ走ることが最大の戦略となります。年間1兆8000億円をコンテンツに投資し続け、会員数増加に邁進していくはずです。

ディズニーグループは、映画製作もグッズ販売もテーマパーク運営もできる総合力が強みです。昨年は、マーベルスタジオ(「アベンジャーズ」)やルーカスフィルム(「スターウォーズ」)も傘下におさめ、コンテンツの充実ぶりはさすがです。作品の毛色に偏りがあるので、そこが強みでもあり、弱みです。動画配信としては2番手、3番手狙いの戦略だと思います。


何をするかわからないと他企業に恐れられているアマゾンも、いまのところ、天下を獲ろうという意欲はないようです。

アマゾンは、ファイヤーTVスティックというテレビに装着することでネット視聴が簡単にできる装置を販売していますが、そのチャンネルボタンには、ネットフリックスも、アマゾンプライムも、ディズニー+も、Huluも刻印されており、自社だけを前面に推し進めようとはしていません。

消費者の利便性を追求することを最大のミッションとするアマゾンらしい振る舞いですが、アマゾンとすれば、動画配信ビジネスは、誰かがひとり勝ちするのではなく、多くの選択肢が残るという見方をしているのでしょう。

これも不本意に儲かりすぎて困っているアマゾンの余裕のなせる業かもしれません。

暫定1位のネットフリックスは、とりあえずトップを走らされているようなもので、苦しい闘いが続くでしょうが、走り続けるしかありませんな。



GAFAでさえ安泰ではない グーグルの危機感


こうしたプロの映像作品を一方向に配信するメディアと、誰でも投稿できる動画メディアのユーチューブを一緒にすることはできません。

ユーチューブには、世界中の素人、プロ、セミプロたちが、思い思いの動画を投稿しています。

その膨大な動画が再生されても動くようなシステムを維持し続けることが、ユーチューブ運営側が日々していることです。

投稿そのものにはコストはかかりません。

無料で集めた動画を利用して、広告収入を稼ぎ、その一部を投稿者に還元するという仕組みなので、収益管理しやすいビジネスモデルです。

先も言いましたが、これが、いわゆる広告収入モデルです。

アルファベット(グーグル)の代名詞ともなっている広告収入モデルをいったん否定してまで、広告掲載なしの有料会員を募り、会費収入モデルへの移行しようというのだから、企業としてはコペルニクス的転換です。

ただし、いまのところ、どちらに軸足を置くのか、決まっていないのでしょう。当面は、2本立てで展開し、どちらに振っても対応できるようにしておく構えのようです。

動画配信ビジネスと違って、投稿動画メディアという分野では、ユーチューブはひとり勝ち状態です。ダントツのシェアトップを誇るユーチューブの優位性は揺るぎそうにありません。

だからこそ、ビジネスモデルの転換を試行するユーチューブの革新性が際立つというものです。


ただ、最近のGAFAの動きをみていると、アルファベット(グーグル)自身、広告収入モデル1本やりの状況に、危機感を募らせているのかもしれません。

他のGAFA、アマゾンやアップルは、継続収入を得るビジネスモデル構築に成功し、抜群の収益性を誇ります。(アマゾンは、儲けない、という方針ですが、それでも勝手に儲かっています)

GAFAから漏れたマイクロソフトも、現経営者になってからは、継続収入モデルに移行し、超優良企業として復活しています。


いっぽう、同じ広告収入モデルのフェイスブックはいまいちです。業績も株価もぱっとしません。


思えば、動画配信ビジネスの殆どは会費収入モデルです。この市場が大きくなった時、広告収入モデルを続けていたら、ユーチューブでさえ安泰だと言っていられなくなるかもしれない。そう考えるグーグルの危機感は、正しいものだと考えます。

ネット時代の初戦を制したグーグルといえども、市場変化のスピードについていくのは、いかに難しいことなのかと、驚かずにはいられません。