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ずいぶんひどい発言をしたものです。

女性客の増加を方針としている吉野家の執行役員が、それを「生娘シャブ漬け戦略」と言ったらしい。

要するに、子供の頃から吉野家の味に馴染んでもらって、ファンになってもらおうという話で、マクドナルドでもやっているファストフードの一つの典型的な方策です。

それを大学の講義内で言ったものですから、炎上騒ぎになり、該当の執行役員はすぐに解任されました。

低成長モデルへの転換が急務


吉野家は、牛丼チェーンのパイオニアであり、大手チェーンの一角です。町の風景の一つになっており、アニメやドラマで採り上げられることも多く、日本文化の一つになった感もある老舗です。

吉野家が急成長したのは、日本の成長期に重なる時期ですから、時機がよかった。いきなり!ステーキなんて、羨ましすぎるでしょうな。男性労働者の需要を捉えて拡大し、現在は全国に1189店の業界2位です。ちなみにすき家の国内店舗は1942店。松屋は953店です。

ただ業界内競争が激しく、薄利多売で利益を出しにくい業界となっています。現在は、人口減少期に入り売上が頭打ちになった上に、人件費や材料費が上がっており、ビジネスモデルの転換が急務となっていました。

吉野家は過去の栄光を捨て去れるのか

経営改革が進んでいた


そこで登場したのが、今回炎上した伊東正明執行役員です。P&Gで実績を積んだ伊東氏は、吉野家に招かれ、経営改革に取り組みました。

極端に男性中心の顧客構成を是正すべく、既存顧客を維持しながら、女性客を増やそうという「コア&モア戦略」なるものを提唱しました。

その方向性は実にまっとうです。誰も文句は言わないでしょう。

しかも、その実行も現実的です。伊東氏は、女性客を取り込むために「小盛」をメニューに加え、それだけではインパクトが薄いので「超特盛」も同時に開始、マスコミにアピールしました。目論見通り、話題になり、しかも売れたのは小盛だったと言いますから、狙い通りです。

この他、ライザップと提携したサラダを提供したり、ポケモンと提携したポケ盛を提供したり、SNSによるアピールを増やしたりと、予算をあまりかけない施策で徐々に業績を上げていきました。

吉野家によると「伊東氏の就任以降、吉野家はみるみるうちに変わっていった」そうで、その手腕は確かなものであると認められていたようです。

伊東氏の次の策が、女性向けの新店舗を展開することでした。こちらは費用がかかりますが、実績を積んだ伊東氏の信用力もあり、2024年までに500店舗にすると計画していました。

個人の資質の問題だと片付けるのは疑問


そんな中でのひどい女性蔑視発言ですから、吉野家もショックだったでしょう。株価は急落し、影響の大きさが計り知れます。

吉野家は、さっそく伊東氏を解任し、社長の3か月報酬減額を発表しましたが、その素早さは、見事なものでした。

ただ、今回の問題を伊東氏個人の資質と片付けていいのか、という疑問が残ります。

タイミングが悪いことに、少し前、吉野家のお客様相談係が、値段が間違って請求されたと苦情をいってきた顧客に「裁判をすればよろしいんじゃないですか」「もう二度と吉野家には来ないでください」などと言う音声が拡散されてしまいました。

それはもうひどいもので、これこそショックな音声でした。

二つの出来事は違うことだと思いながらも、結び付けてイメージしてしまいます。つまり、吉野家全体が、顧客や世間を軽視する文化を持っているのではないか?

まさか、安い商品を提供してるんだから黙って食べろ、いちいち苦情を言って来るな!と内々に思っているのか?

あるいは、質の悪いクレーマーが多いので、苦情をいう顧客を総じて敵視するようになってしまったのか?

そうだとすれば、また吉野家はどこかでやらかし、マジョリティの支持は得られないでしょう。一部の熱狂的なファンを持つマイナーな飲食チェーンとして生きる道を進むしかありません。

マーケターとして実績のある伊東氏自身は、深く反省した後、またどこかの企業で活躍の場を持つはずです。

が、これが文化や風土の問題だとすれば吉野家の方の根が深い。この際、吉野家は、徹底して社内を調査し、間違った考えがあるならば、根っこの部分から正しく変化していかなければならないと思います。