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日本電産の後継者問題が混沌としてきています。さすがに株式市場も呆れたのか、株価が急落しています。

業績好調 売上高10兆円を視野に


日本電産は、世界最大のモーター製造メーカーです。

業績は好調です。2021年3月期の売上高1兆6180億円。純利益1219億円。売上高はずっと右肩上がり、利益高もほぼ右肩上がりを続けています。

2025年度には売上高4兆円。2030年には10兆円の目標を掲げています。かなり高い目標ですが、実現不可能だとは思えないのが、これまでの同社の実績によるものです。

日本電産は、1973年、創業者の永守重信氏が、4人で立ち上げた会社です。それから50年、一代で売上高1兆円超の世界トップ企業を作り上げた永守氏の手腕は驚くべきものです。

急拡大を支えたのが、度重なるM&Aの成功です。とにかく同社は、M&A巧者として知られ、ほぼ全勝といってもいい成果を残しています。

難しいといわれるM&Aをいかにして成功に導くのか?その秘訣を知るのは難しいのですが、聞くところ、永守重信氏の個人的な能力に負うところが大きいらしい。初期の小さなM&Aで運営のコツを習得した永守氏は、いまでも買収した会社に腹心の部下を送り込む際に微に入り細に入り実に細かい指示をするといいます。

永守氏は、0円単位まで経費チェックすることを公言しており、会社の隅々まで知り尽くすことを自らに課しています。つまり、組織を自分の思うまま動かすことを求め、それができているのでしょう。

そんな永守氏の経営手腕を疑う者は誰もいません。今では、日本電産の業績が悪ければ、他の企業が悪くても仕方ないねと言われるぐらいの評価を得ています。

ただし、あまりにも高い評価は、ポスト永守を混沌とさせる要因となっています。

それはともかく、モーターは、半導体のようにあらゆる産業分野で活用されるものです。今後、EV需要、および省電力需要の高まりにより、需要は膨大です。売上高10兆円の目標達成は、決して絵空事ではないと思います。

後継体制を本当に作りたいのか?


永守氏は世襲を否定しており、後継者選びが課題になっていました。10年前から、外部の優秀な人材を後継者候補として招いては、失望して取りやめるということを繰り返しています。

今回も、日産自動車出身の関氏をCEOにしたのはいいものの、辛辣な評価を下して、3年で降格させる結果となりました。

もっとも今回ばかりは株価急落を受けて「関氏が後継候補であることは変わりない」と取り繕っていますが。

永守氏は「いつまでも私がやっている会社ではない。私がいなくてもしっかり問題を処理してくれる体制づくりが大切だ」と発言しているようですが、それが一向に進まないのは当の永守氏の存在によるものです。

そもそも日本電産生え抜きの人材が後継でない理由は何でしょうか。要するに、ワンマン体制の組織からは、後継者は育たなかったのです。少なくとも、永守氏はそう感じているのでしょう。

それなのに、後継候補が行うワンマン体制からの脱却を目指した組織改革は、一時的にせよ、業績が落ちるという理由で否定されています。

突き詰めれば、永守氏のクローンのような人物に、ワンマン体制をそのまま受け継いでもらうしかないわけで、結局、自分が未来永劫続けたいという本音を示しているとしか思えません。

永守氏が割り切れない


引退する経営者ができることは、組織がおかしな方向に暴走しないように、守りを固める体制にすることでしょう。

例えば、GEは、後継者争いに敗れた者は退社する、前経営者は完全引退するという暗黙のルールがあるようで、事業承継は比較的スムーズです。

あるいは、トヨタのように世襲を基本線にして、つなぎの経営者が力を持ち過ぎないようにする会社もあります。世襲が必ずしも悪いわけではありません。ちなみに子息の永守貴樹氏は、家庭用品メーカー、レックの社長です。

京セラの事業承継もスムーズでしたね。かの会社は、組織を細かく分けていたため、経営手腕を磨き、経営者適正を見分けやすい体制がありました。生え抜きから後継者を探しやすい組織となっていました。

それに京セラの稲盛氏は「会社は個人のものではない。たまたま自分が社長という役割を担っただけだ」と言っていました。創業社長が、これほど割り切っていれば、後継者もやりやすいはずです。

しかし、永守氏は、自分ならば日本電産を10兆円に育てることができる、という意識が強いのでしょうね。守りを固めて、成長を阻害させるなんて許せない、後継者は自分と同じことをしなければならない、という意識が強いようで。

だからこそ「一番実績のある人が次のCEOだ」という発言になるわけです。

外部から来た人間が、いくら優秀だからといって、強烈なカリスマ創業者のあとを受け継いで、さらに成長させるというのは並大抵ではありません。ましてや、当の創業者が批判的な目を光らせているところで経営するなど、怪物的なメンタルがなければ務まりません。

いま名前が挙がっている方々は、その怪物的なメンタルの持ち主なのでしょうかね。

永守氏の眼鏡に叶う人材が見つかればいいなと思いますが、望みは薄いでしょう。この問題、永守氏の方が、割り切らなければ、終わりませんね。