楽天


(2018年6月14日メルマガより)


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少し古い話になりますが、インターネット通販モール大手の楽天が、携帯電話事業への参入を表明しました。

昨年末のことです。

えー?なんでー?と関係者がいっせいに驚いた表明でした。


というのも現在、日本の携帯電話市場は、飽和状態です。成長余地はあまりありません。

その市場をドコモ、au、ソフトバンクが分け合っています。

大手3社による顧客の奪い合い競争はすでに一区切りついており、各社の思惑は自社顧客の囲い込みに向かっています。

そんな安定した市場にいまさら切り込んでいって、どうするというのでしょうか。

そもそも携帯電話事業には、莫大な投資が必要です。少なくとも兆単位の投資が必要になります。

既に基地局を持っている大手3社でさえ、年間3000億円から6000億円の設備投資を必要としています。

そんなところへ、一から基地局を作らなければならない新規業者が参入して戦っていけるのでしょうか。


携帯大手3社は無風の市場でらくらく儲けている


もっとも典型的な装置産業である携帯電話事業は、一度設備を作ってしまえば、後はユーザーを集めれば集めるほど儲かるビジネスです。

実際、ドコモ、au、ソフトバンクの大手3社は、いずれも営業利益20%前後を安定して稼ぎ出しています。

かつての新規参入業者であり、業界の暴れん坊だったソフトバンクも、いまではすっかりエスタブリッシュメント(支配階層)になってしまって「金持ち喧嘩せず」という姿勢を決め込んでいます。

要するに、寡占をいいことに、大手3社は競争もせずぬくぬくと儲けているわけですな。

いまいち通販事業が突き抜けない楽天にとって、携帯事業から得られる安定利益と現金は魅力的に映るはずです。

なにしろ天下取りの野望が人一倍強いといわれる三木谷氏ですからね。ローカルなネット通販事業の運営だけで終わる気持ちはさらさらないでしょう。

孫正義氏の背中を追うためにも、世界に打って出るためにも、携帯大手の地位は欲しいところではないでしょうか。

一方、総務省は、携帯電話料金を下げさせたいと考えているので、楽天のような勇気ある新規参入業者の登場は歓迎しています。もちろん我々ユーザーにとっても朗報です。

楽天の参入によって、携帯電話料金全体が下がることを期待しましょう。


インターネット複合企業


楽天は、1997年、インターネット通販モール「楽天市場」の運営会社としてスタートしました。

創業経営者である三木谷浩史氏は、神戸生まれ、日本興業銀行を経た後に楽天を設立しました。

日本のインターネット黎明期に、いち早くネット通販モールを開設した先見性は、さすがです。

が、三木谷氏によれば、楽天の本当の強みは「血みどろ営業」なのだとか。

実際、楽天より早い時期に同じコンセプトの事業を立ち上げた会社はあったのですが、楽天の泥臭い営業実行力により蹴散らされてしまいました。

そのため楽天は、早い時期から日本のネット通販最大手としての地位を確かなものにすることができました。

このことから、三木谷氏の経営手腕が、理念やスローガン先行の青臭いものではなく、現実的な構築力を備えたものであることがわかります。

その後、楽天は、インターネット通販モールを中核に、様々な企業を買収して急成長を遂げます。

現在の楽天の姿は、インターネットサービス全般、金融、通信、プロスポーツなどを手掛ける複合企業です。

2017年12月期の売上高は、9445億円。営業利益は1493億円。営業利益率15.8%。

ちなみに、売上高の約6割をインターネット通販やインターネットサービス関連事業が占めており、約3割が金融関連(カード、銀行、証券など)です。

儲け(営業利益)をみると、金融関連の収益性が高く、利益額では通販事業に迫る勢いを見せています。

楽天は金融事業が稼いでいる。といわれる所以です。


「楽天経済圏」の強化がねらい


楽天グループの特徴は「楽天経済圏」といわれるほど多様で包括的な事業群を持っていることです。

インターネット関連では、ネット通販の楽天市場を中心に、書籍販売サイト、電子書籍リーダー、旅行情報サイト、ゴルフ場予約サイト、グルメ情報サイト、マーケティングサービス、なんでもあり。

金融関連でいえば、銀行、証券、クレジットカード、生命保険、電子マネー、ポイントなどを手掛けています。

さらにいえば、プロ野球チーム、プロサッカーチームも運営しています。

三木谷氏は、これを「エコシステム」と呼んでおり、ひとりのユーザーのニーズを根こそぎ取り込もうという構えです。


そうそう。楽天モバイルという携帯電話事業も既に持っています。

ただし、これまでの携帯電話事業は、MVNO(仮想移動体通信事業者)といわれるものでした。

このMVNOとは、大手3社の通信設備を借りて運営される携帯電話事業のことで、設備投資がいらないので、低価格を実現することができます。

楽天モバイルは、ドコモの回線を借りて運営されていました。

しかし、他社から借りて運営するというのは、仕入れ値が決まっているので、事業としてのうまみが少ない。つまり儲けが少ない。

いや、儲けが少ないとしても、携帯電話事業を持っていれば、ユーザーを楽天経済圏の中に囲いこむことに有利に働くのでいいじゃないか。と思えるかもしれません。

携帯電話料金と一緒に、他のサービスの代金も徴収することができます。クレジットカードや銀行にもつなげやすい。今、話題のQRコード決済にも、即対応できます。

携帯電話を使えば使うほど、楽天ポイントが溜まるので、他のサービスに誘致しやすい。ネット通販するにも、ポイントを利用できます。

楽天にとって、人々が肌身離さず持っている携帯電話を押さえることは、戦略上非常に重要な事項であるといえます。


ドコモとの衝突


しかし他の携帯電話会社にとっても、ユーザーの囲い込みは重要事項です。

ソフトバンクは、Tポイントに資本参加しているので、携帯料金とTポイントがリンクしています。

その上で、ヤフーの諸サービス(通販、オークション、旅行予約サイトなど)につなげることができます。

auは、ウォレットポイントなるものを運営しています。また銀行も持っています。その他通販サイトもあります。(auの囲い込みはまだ中途半端ですが…)

そして最近特に動きが激しいのがドコモです。

同社は、2015年から開始したdポイントの運営に力を入れています。

何しろ7400万人の携帯電話契約者を持っているので、携帯使用料金に応じて、年間1500億円相当のポイントを付与しているといわれます。

そのポイントは、ドコモ自身が持つショッピングサイト、電子書籍、雑誌見放題サイト、カーシェア、動画サイト、ヘルスケアサイトなど諸サービスに利用可能です。

ドコモは、諸サービスの開発を急いでおり「ドコモ経済圏」の拡大を進めています。


つまり、2014年に楽天ポイントを始め、楽天経済圏への囲い込みを強化しようとしてきた楽天と、ドコモの近年の動きがぶつかってしまっているのです。

これでは、ドコモの回線を借りて運営する楽天とすれば、いつはしごを外されるかも知れないと安心できません。

楽天が、無謀だと言われながらも、携帯電話事業への参加を表明したのは、このあたりにも原因がありそうです。


アマゾンには敗色濃厚


いっぽう本業である楽天市場は、アマゾンに対して不利な戦いを強いられています。

これまで物流体制に莫大な投資を積み重ねてきたアマゾンは、即日配送、無料配送など考えられないようなサービスを展開しています。

これにはショッピングモール型の楽天市場は太刀打ちできません。

ショッピングモールというのは、各店舗の集合体ですから、物流は各店任せ。ホームページも各店任せです。

楽天は各店舗に対して細やかな指導をしているそうですが、それでも限界があります。

いうなれば、アマゾンに対していかに生き残っていくのかを考えるのは、店の責任だと突き放した状態です。

ショッピングモールなのでそれは当然といえば当然なのですが、有効な知恵を持たない楽天を店側が不満に思うのも仕方ありません。

楽天に出店している店側が楽天を捨てられないのは、楽天側に常連客の情報などを握られているからだという後ろ向きな理由も聞こえてくる有様です。

ここが現在の楽天の最大の泣き所です。


海外展開の失敗が契機


海外展開に失敗したことも、楽天を苦境に陥れています。

もともと楽天という名称は、織田信長の「楽市楽座」からとったといわれています。

それだけスケールの大きなことを考える三木谷氏ですから、海外への進出は、悲願、という大げさなものではなく、当然の方向性だったことでしょう。

しかし、社内公用語を英語にしてまで目指した海外展開は、はかばかしい成果を得られていません。というか、全滅したといってもいい状態です。

理由は明白です。

今さらネット通販モールなんて珍しくもないですから、何らかの実利がなければ、出店者が集まりません。

それなのに、金融関連事業を準備できなかったために、日本で機能している顧客の囲い込み体制を海外ではうまく作ることができませんでした。

これでは得意の「血みどろ営業」も機能しません。

こうした事情があるから、まずは日本の事業を強化しよう、そのためには携帯電話事業をものにして顧客基盤を盤石なものにしよう、と考えるのは、合理的で適切な方向性だと思います。


武器は「儲けない」価格戦略


携帯電話事業において、楽天は新参者ですが、顧客囲い込み戦略については一日の長があります。

携帯電話のユーザーを囲い込み、逃がさない体制は、大手3社よりも完成しています。

だとすると、いかに新規ユーザーを獲得するかが課題になりますが、これは間違いなく、低価格路線でいくはずです。

大手3社は充分利益をとって運営していますが、楽天は、利益なしでもユーザーを獲得する、という姿勢でやってくるでしょう。

かつてソフトバンクが参入して価格競争を仕掛けたとき、ドコモもauも妙に大人の対応で静観して、ソフトバンクの台頭を許してしまった苦い過去があります。

だから、今度は、ドコモもauもソフトバンクも黙っていないでしょう。

特にMVNOのパートナーであったドコモは「裏切られた!」と憤っているそうなので、容赦はしないはず。

かつてない激烈な価格競争が巻き起こることが予想されます。

われわれユーザーにとっては、楽しみなことですね。


ドコモをなんとか懐柔しなければ


ドコモが憤るもう一つの理由が、楽天が通信回線設備を準備できないと思われることです。

楽天の携帯電話事業参入は、来年の10月からということですが、それまでに自前の回線設備を全国に備えることなど不可能です。

いや、それ以降も、楽天は都市圏の設備に投資を集中せざるを得ず、地方に関しては後回しにせざるを得ません。

そうなると、ドコモや他の回線設備を借りて運営することになります。

ドコモからすれば「ひとの回線を使って、安売りして、顧客を囲い込みやがって!」と憎さ百倍にもなるでしょう。

ドコモのあまりの剣幕に、総務省も、認可にあたっては「携帯電話事業者は自らネットワークを構築して事業展開を図るという原則に留意すること」という文言を入れる事態となりました。

それでも現実には、設備を全国津々浦々に整えることなどできません。都市圏への対応が精いっぱいでしょう。ドコモの怒りはもっともですが、致し方ない。

三木谷氏のもう一つの得意技である「じじ殺し」といわれる政財界の重鎮に可愛がられる特性を活かして、なんとか大手3社と折り合いをつけて乗り切っていくことでしょう。


本質は中核事業の強化のはずだが


それより心配なのは、楽天の打つ手が、中核事業から離れていっていることです。

顧客囲い込みを強化するのは合理的な戦略であると言いましたが、それは、グループ内に魅力があるという前提があってのことです。

楽天の場合、中核事業はあくまでインターネット通販です。

そこでアマゾンに勝てないから、囲い込み手法を強化する。というのは、本質から逃げているといわれても仕方ありません。

それなのに、最近の三木谷氏のやることは、海外のプロスポーツチームのスポンサーになったり、海外の著名選手を32億円の年俸で神戸のサッカーチームに連れてきたり、といささか浮世離れしてきています。

海外事業の基盤がないのに、海外の知名度を上げてどうするのでしょうか?

そんなところにお金を使うのではなく、本当にしなければならないのは、インターネット通販でアマゾンに負けない差別化や、顧客体験の高度化を図ることです。

ゾゾタウンがこれほど持て囃されているのは、アパレルという狭い世界ながら、アマゾンに負けない購買体験を顧客に提供しようとしているからです。

ゾゾスーツなんてとんでもないものを配布したりしています。

楽天が知恵を絞るべきは、この部分のはず。アマゾンのスムースでストレスのない購買に慣れた顧客を楽天市場に引き込むにはどうすればいいのか。その答えを見つけなければなりません。

「そんなことはわかっとる!黙れ小童!」といわれそうですが、答えが見つけられれば生き残れるし、できなければ枯れていく世界です。

それなのに、最近の楽天の動きはどうにも、周辺分野や小手先の販促策に止まっているように思えてきます。

日本のインターネット通販の雄が将来にわたって強い企業であるためにも、もう一度、自らの中核を見直して、われわれを驚かせるサービスや仕組みを開発していただけることを期待しております。


【参考】