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(2007年9月27日メルマガより)

■以前「発想法」について書いたことがあります。

ビジネスのヒントは、思わぬところに落ちているものです。

複雑な思考法は必要ありません。実に単純なものです。

このメルマガでも、「最寄品」「買回品」という商品の分類に着目した発想法を紹介いたしました。


■その好例が「洋服の青山」に代表される郊外型紳士服専門店業界です。

1980年代頃までは、庶民にとって^^スーツといえば、ボーナスが出た月にしか買えないものでした。

私はその頃、ペーペーでしたから尚更です。少ないボーナスは飲み代に消えてしまい、スーツは半年後に買おう...なんてよく思っていたものでした。

つまり、スーツは「買回品」だったのです。

■ところが「洋服の青山」の登場が市場を一気に変えてしまいます。

確か目玉は1000円のスーツ(数量限定)だったと思います。

(当時の週刊誌が、青山の1000円スーツを質屋に持っていったら5000円になった!という記事を載せていたのを記憶しています^^)

1000円のスーツは極端にしても、百貨店の1/2、1/3の価格で大量の商品が常時販売されています。

まさに価格破壊。

彼らは「買回品」を「最寄品」にしてしまったわけです。

その衝撃度や凄まじいものがありました。

■このように、「最寄品」→「買回品」にするよりも、「買回品」→「最寄品」にする方が、破壊力を持ちます。

ユニクロがフリースで大ブームを引き起こした時も衝撃でしたが、こちらはまだ最寄品の中でのポジションチェンジ程度です。だから、青山のスーツ革命のインパクトには及びません。

それぐらいの社会的な事件だったのです。

■「買回品→最寄品なんて簡単に言うな!それができれば苦労しないぞ」と怒られそうですが。。。その通りですね。

確かに苦労します。

しかし、そうやすやすと革命を起こしてもらっても困りますしね。

簡単にはいきません。

まあ、ここでは発想の方向性を見てもらいたいと思ったわけです。

■ちなみに青山の革命の根拠は「大量買取仕入・多店舗大量販売」です。

店がいっぱいあるから、大量に仕入れられる。品揃えがあるから、安心して売れるというわけです。

そこには、流行のあまりないスーツという商品の特性があります。在庫がいっぱいあっても死蔵在庫になる恐れが少ないわけです。

さらに重要なのは、現金販売のわりに、仕入手形のサイトが6ヶ月という恐るべき長さであったことです。この回転差益が、キャッシュの余剰を生み、大量出店を可能にしたというカラクリです。

これに尽きると言いたくなりますね。

だから、当時の本当の衝撃は、価格破壊よりも、凄まじい大量出店の勢いだったと思い出します。

■もっとも、この爆発的な成功モデルも20年が経ち危うくなってきています。

少子高齢化の波はスーツ業界にも訪れています。

現在、スーツの販売量はピーク時の2/3程度。団塊の世代の退職でさらに減少することは「すでに起こった未来」です。

大量販売という根拠がなくなれば、このビジネスは行き詰まってしまいます。

また、成熟した市場においては、価値観の多様化が進み「こだわり」や「本物志向」が再び脚光を浴びるようになります。

青山、コナカ、はるやまともに、セレクトショップの立ち上げを試行しているようですが、この分野では「弱者」としての戦いを強いられます。それなのに、弱者として武器となる「差別化ポイント」を打ち出せない状況では、突破口とはなりえません。

このままではジリ貧になることは必至ですが、強烈な成功体験から抜け出せないのは、あらゆる起業家に共通する問題なのかも知れません。

未だ利益が出ているうちは、新たな改革を起こすことは難しい状況です。

■彼らから10年遅れて市場に登場したユニクロ(ファーストリテイリング)も、岐路に立たされています。

ただ、ファーストリテイリングは、アパレル市場が縮小していく厳しい時代に登場した企業なので、最初から危機的状況は織り込み済みだったようです。

国内市場が成熟しているならば、海外に出ていこうというのが、同社のシンプルな考え方です。

国内でフリースの色を変えて少々ヒットさせたところで、柳井会長の言う1兆円企業には届かないでしょうし。

■だから、ファーストリテイリングは、潤沢なキャッシュを根拠に、海外企業の買収を積極的に進めようとしています。

この動きは、なにも同社だけに限ったことではありません。日本のアパレル大手の多くが、海外ブランドの買収を志向しています。

面白く、かつ難しいのは、キャッシュの額だけで有望な買い物ができるわけではなさそうなことです。

実際、同じように海外ブランドを買収しても、その後、鳴かず飛ばずのところ(レナウン→英アクアスキュームタム)もあれば、海外進出の足がかりとして飛躍のきっかけとした企業(オンワード→伊ジボ・コー)もあります。

当たり前の話ですが、結局は、買収後のマネジメントが成否を分けるのです。

ということで、ファーストリテイリングが米バーニーズ買収を断念したからといって、それが特段失点になったわけではなかったのです。

■いずれにしても重要なのは、ファーストリテイリング、青山ともに弱者としての戦略を持つことです。

ファーストリテイリングは、世界市場における弱者としての立場を認識し、弱者の戦略を選ぶこと。

青山は、スーツ市場の周辺の市場に進出する上での弱者の戦略を選ぶこと。

つまり、小さな市場を選び、差別化、集中、勝ちやすきに勝つ。そしてナンバーワンを勝ち取ること。

グローバル化の時代であるからこそ弱者の戦略が必要とされているのです。

■それにしても、ユニクロ、青山、ともに強烈な成功モデルを持っていた企業が、成功パターンを崩さなければ生き残っていけない事態に陥っています。

2社に共通するのは、一世を風靡し、巨額のキャッシュを生んだ見事なビジネスモデルを作り上げていたこと。

青山は、大量出店大量仕入大量販売モデル。

ユニクロは、中国を巻き込んだ製造販売小売モデル。

比較するとユニクロのモデルの方が、陳腐化は早かったようです。これは、モデルの優劣ということもあるでしょうが、環境の移り変わりが早くなってきていることも関係していると考えられます。

■ということは、中小企業が、中途半端にビジネスモデルで勝負することはリスクが高いことではないかと思います。

ファーストリテイリングのように、生きのびるために必要なキャッシュを獲得できれば幸運でしょうが、小さな成功ではそれもおぼつきません。

21世紀は柔軟性とスピードの時代だという声があちこちから聞こえます。

固定化されたビジネスモデルで戦うよりも、柔軟な動きの中でのしたたかな戦略選択が求められる時代だということです。