(2020年8月6日メルマガより)
無印良品を展開する良品計画の米国子会社が破綻したというニュースがありました。
同社は、米国で18店舗を展開していますが、新型コロナの影響を受けて、立ちいかなくなったということです。
今後は、日本の民事再生法にあたるチャプター11のもと、再建を図るそうです。
アマゾン・エフェクトで激動の米市場
コロナの影響げに恐ろしや、ということですが、実際のところ、今の時期に破綻するのは、コロナがなくてもうまくいっていなかったことが殆どです。
同社もそうです。米国事業の苦戦は以前から伝えられていました。
コロナがなくても米国市場で小売事業を成功させるのは難しい。
いわゆるアマゾン・エフェクトにより、トイザらスやシアーズなど名だたる小売りチェーンが破綻に追い込まれてきました。
小売りチェーンの王者ウォルマートでさえ、土俵際まで追い詰められました。そのウォルマートの反攻は、なりふり構わぬネット事業への傾斜でした。
激動の米国市場で生き残るのは、アマゾン以上にネットをうまく使う企業のみ、というのが今の状況です。
家賃が高いから家主と交渉する、という良品計画の動きは、どうにももどかしく感じてしまいます。
良品計画の「終わりの始まり」?
もっとも、良品計画グループにとって、米国事業は小さな規模です。
同グループは国内外で970店を展開しており、米国はそのうちの18店舗です。
2020年2月期の売上高は、4387憶円。利益は232憶円です。
米国子会社の売上高は、約110憶円。負債総額約68憶円ということですから、グループを揺るがすほどのものではありません。
しかし、かつての天下をとるかのような良品計画の勢いを知る者からすれば、このつまづきは意外でした。
しかも今回の報道をみてみると、ずさんな内情が見えてきたから穏やかではありません。これが良品計画の終わりの始まりにならないとも限りません。
量販店のPBだった無印良品
良品計画の設立は、1989年です。当初、大手量販店・西友のプライベートブランド(PB)である無印良品を仕入れ販売管理するために作られた会社でした。
無印良品とは、ノー・ブランド・グッズの和訳です。
あえてブランドを付けないことで、低価格化を実現しようという意図がそこにありました。
量販店全盛の時代に、シンプルで安い無印良品はよく売れました。西友のPBなのに、ライバルのジャスコにも商品供給していたぐらいです。
しかし、2001年には、ディスカウントストアの台頭により、低価格メリットが薄れて販売低迷してしまい、赤字転落します。
中途半端な安売り商品になってしまったのですね。
無印ブランドのリ・ポジショニング
そこで、赤字転落した2001年に社長就任したのが松井忠三氏です。いまではカリスマ経営者として賞賛される松井氏も、就任当初は、西友からの左遷出向組といわれていたそうです。
松井氏は、良品計画を立て直すために、主に2つの改革を為しました。
1つは、無印良品のブランドの位置づけを再考することでした。
ノーブランドを安売りのための理由とするのではなく、無印であることに積極的な意味づけを行いました。
すなわち、余計な装飾を排したシンプルな機能性。ひいては、過剰さと無縁のライフスタイルの提言を無印というブランドにこめたのです。
何かを加えること、足すことがマーケティングのセオリーだった時代が長く続いていただけに、引くこと、取り除くことを進めたことは斬新でした。
何事も過剰だったバブル期への反動もあったでしょう。
無印良品の売り場にいると、必要な機能だけあればいいというシンプルさがすごく魅力的に思えてきます。
結果として、価格は少し高くなったのですが、ライフスタイル提案が的確だったので、無印ブランドは先端的な顧客層に受け入れられました。
後に無印は、エコロジーや安心素材、フェアトレードなどの象徴性も帯びるようになり、まさに時代を先取りするブランドとなっていきました。
業務改革の徹底
改革のもう1つは、社内業務の無駄を省くことでした。
人事部出身の松井社長にとってこちらの方が得意分野だったかも知れません。
当時から、残業削減を掲げ、そのための業務改革に取り組みました。
有名なのは「ムジグラム」と呼ばれる業務マニュアルの作成です。図解満載で、誰にでもわかるように工夫されたマニュアルは、新人のためだけではなく、業務内容をシンプルにする役割を果たしたようです。
ムジグラムの作成、改訂を通じて、現場の作業効率化が進められていきました。
また良品計画は、仕入れ業務を本社一括でシステム化していることでも有名でした。
当時の量販店といえば、仕入れはバイヤーの裁量に任されており、極めて属人的な作業であったはずです。それを本社が統括するには、売り場の状況を正確に把握するシステムがなければなりません。
IT技術がそれなりに整備された現在なら現場のリアルタイム把握は当たり前なのですが、当時は革新的でした。
しかも、同社は、社内のITシステムを社員が作成しているらしい。業者に頼むよりもはるかにフレキシブルでシンプルで高速で低コストなシステムを構築しているそうですよ。
カリスマ経営者の退任後
赤字転落から画に描いたようなV字回復を成し遂げた良品計画は、2006年から2008年まで連続で最高益を更新。松井社長は、会長に退きます。
松井氏がカリスマ経営者としてマスコミに盛んに登場したのは、この頃ですね。とにかく当時の良品計画は、勝ち組の中の勝ち組だと思われていたものですから、華々しいものでした。
弊社主催の「戦略勉強会」でも、良品計画の事例はとりあげさせていただきました。だから憶えています。あの頃の良品計画には無敵感がありましたな。
しかし、カリスマ経営者の後を継ぐ人は何かと苦労するものです。
良品計画も同じだったのでしょうな。
経営者が変わった途端、業績を落とせば、赤っ恥ですから、何がなんでも伸ばそうとします。
そこに無理があったということなんでしょうね。
海外展開に活路
何しろ、人口減の日本市場には伸びしろがありません。
無印の商品そのものは、マネできないものではありませんから、競争が激化しています。
ニトリやユニクロやダイソーまでもが、無印風の商品を揃えてきています。
すべてダイソーで商品を揃えても、コーディネート次第で、それなりの雰囲気が出せる、ということが、ユーチューブやインスタグラムには多数投稿されており、消費者が流れていくのは必然です。
競争激化は良品計画側もよくわかっているようで、松井氏時代はご法度としていた値下げ販売に踏み切りました。
在庫が過剰気味なので仕方ない部分もありますが、これはブランドの価値を下げる禁断の手です。いま一時的に売上が伸びても、長続きする方策ではありません。
そこで、良品計画が活路を求めたのが、海外展開です。
特に中国の消費者は、無印良品を憧れの商品だと捉えているらしく、高評価が業績に表れています。
欧米でも「禅」をイメージさせるようなシンプルなデザインが、受けていると報道されていたものです。
現在、無印良品の店は、
日本:436店。
中国:274店。
欧州:44店。
米国:18店。
その他:198店。
というものでした。
チグハグな米国展開
米国の18店舗が破綻したというのが今回のお話です。
え?「禅」をイメージさせて素晴らしい!と絶賛されてるんじゃないの?と思ったのですが、報道によると、米国市場では、それほど好意的には受け取られていない様子がうかがえます。
もともと、米国は、派手で過剰なイメージを好む市場です。
確かに一部の顧客層は、東洋的な無印のコンセプトを好むのかも知れませんが、マジョリティではありません。
さらに報道によると、日本や中国の商品をそのまま米国市場にも供給しているとかで、サイズ感が合わないといわれているそうですな。
中国から商品を送るので関税の問題もあるでしょう。
高いし、好みに合わないし、サイズも合わない、となれば、売れる方が不思議というものです。
しかも、良品計画側は、米国市場攻略を重要事項としており、わざわざ賃料の高い一等地に旗艦店を作ったというではないですか。
市場がニッチなのに、盛大に固定費をかけてるわけですから、そりゃ破綻しますよ。
今になって経営陣は「これから出店計画はもっと慎重にしたい」なんて言っていますが、何だかやっていることがチグハグで、かつての良品計画らしからぬずさんさです。
加えて、欧州でも、2019年は赤字だそうで、海外拡大路線が必ずしもうまくいっていないことが見て取れます。
商品分野の拡大
もう一つ、現経営陣がやっているのが、商品分野の拡大です。
いま、無印良品は、雑貨、衣料、家具。だけではなく、食品、ホテル、キャンプ場にまで進出しています。
特に食品分野に対する意欲は並々ならぬものがあります。
無印ブランドはライフスタイル提案なのだから、生活すべてに拡大するのは当然だ。特に食品分野の拡充は不可欠だ。
というのが、経営陣の考えだそうで、理屈としてはよくわかります。
が、それだけ分野を広げて、本当に運営できるのだろうか?
大阪にも無印良品の食品売り場がありますが、正直いって、商品内容も陳列も価格も無印らしい魅力を感じることができず、これならデパ地下に行く方がいいやん。と思ってしまいます。
改革をやり直す時期
こうなると、頼みの綱となっている好調の中国市場や東南アジア市場がどこまで維持できるのかという問題になってきます。
なにせ、日本国内でさえ、競争激化し、値引き販売せざるを得ないほど、追い詰められたのです。
現地企業が力をつけて、競合になっていくこともあるでしょう。いつまで「憧れの日本」プレミアムが続くのか、危ういものです。
ともかく、過剰在庫を持たざるを得なかった販売予測システムを早急に整備しなければならないですし、無印ブランドのコンセプトをもう一度、見直す必要がありそうです。
つまり、松井氏のやった2つの改革を再びやり直さなければなりません。
ポジションを見誤っている
そもそも、拡大路線は正しいのでしょうか?
無印の持つ、シンプル、エコロジー、安全、フェアなライフスタイル提案とは、世界のマジョリティを捉えるものなのでしょうか。
確かに素晴らしいコンセプトだと思いますが、それを受け入れる層がいまだマイノリティだとすれば、今のような拡大路線は、無理があるというものです。
思えば、松井氏時代の無印良品は、量販店というマジョリティへのアンチテーゼだったはずです。マイナー市場を丹念に慎重に掘り起こした結果が、無印ブランドを確立することにつながりました。
要するに、無印良品が立脚しているのは、いまだマジョリティ市場ではないということです。
それを、勝ち組企業だからと、自らのポジションを見誤ったのではないか。
松井氏時代よりもさらに業績を上げなければならないという呪縛が、現経営陣をとらえているのではないか。
と思うわけです。
今回の米国事業の失敗を些細なことだと軽視していれば、本当に終わりの始まりになってしまいそうです。
しかし軽視しなければ、まだまだ立て直しできるポテンシャルを持つ企業であることは間違いありません。
かつての勢いを知る者として、再び輝く日が来るのを願ってやみませんね。