ニトリ


(2021年4月1日メルマガより)


家具小売りチェーン、ニトリの業績が絶好調です。

2021年2月期の連結売上高は、7200億円弱。

営業利益は、1400億円弱となる見込みです。

売上高においては、前年比10%以上、営業利益に至っては、前年比30%です。


量販店、コンビニなど小売店は全般に、コロナ禍の巣ごもり消費を捉えて、業績好調ですが、ニトリの好調ぶりは、群を抜いています。

もちろんニトリが凄いのは今だけではありません。

1988年以来、33期連続で増収増益です。

経営危機があったとすれば、1997年メインバンクの北海道拓殖銀行が破綻した時ぐらいで、ニトリ自身の責任ではありません。

素晴らしいという他ありません。


高度成長期に時流を捉えた創業


ニトリは、1967年、北海道札幌で似鳥昭雄氏(現会長)が創業した似鳥家具卸センターを祖とする小売りチェーンです。

当初は、名前の通り、家具を仕入れて、卸売り価格で一般顧客に販売する小売店でした。

1967年といえば、高度経済成長の真っただ中です。

人口増、所得増の時代であり、日本国内には旺盛な消費需要がありました。

大量販売大量仕入れを実現した量販店が小売りの主役になろうとしている頃であり、家具の低価格販売は、時流を捉えたビジネスです。

後に似鳥昭雄氏は、日経新聞の「私の履歴書」で、「たまたまうまくいった」的な趣旨の自虐的な創業エピソードを披露していますが、実際のところ、理に適ったビジネスです。

現に、同ビジネスは、順調に拡大し、1989年には、株式上場するに至っています。


運は創るもの ―私の履歴書
似鳥 昭雄
日本経済新聞出版
2015-08-26



製造小売りになる


ニトリがすごいのは、ここからです。

流通の段階を短縮化したり、大量仕入れでメーカーから安く買うだけでは、仕入れ値を下げるのに限界があります。

もっと安く販売するためには、どうすればいいのか?

これを追求し、出した答えは、ユニクロと同じです。すなわち、自社で企画し、製造販売するということでした。

上場前の1987年には、はやくも家具メーカーを買収し、製造小売りへ一歩踏み出しています。

それから約10年かけて、タイやインドネシアに生産拠点を作り、海外で作った製品を日本で販売する体制を整えていきました。

1998年には、国内工場を閉鎖していますから、徹底しています。

現在は、ベトナムに巨大工場をつくり、生産拠点の中心としています。


物流の効率化、高度化


さらに経費を下げるにはどうすればいいか?

ニトリが次に取り組んだのが、物流の効率化です。

2000年に関東物流センターが稼働。

倉庫管理のシステムや、配送管理のシステムも自社開発しています。

ピッキングロボットを導入し、自動化にも積極的です。

現在、物流センターは全国12拠点。配送センターは全国78拠点です。

物流効率化への投資はいまも続いており、同社の利益率向上に効果を発揮しています。


ニトリのビジネスモデルは、資材調達、生産、配送、販促、販売まで自社で行うSPA(製造小売)です。

先ほども言いましたが、これはファーストリテイリング(ユニクロ、gu)と同じ形態です。

自社で何でも手掛けるため、固定費が大きくなるものの、自社の努力で経費をコントロールしやすいので、長期的な利益向上を図ることができます。

ニトリが、毎年のように利益を上げ続けている要因となっています。


細かなマーケティング力


もちろん、経費を削減し、安売りするだけで、31年も増収を続けられるわけではありません。

販売量を上げるためには、店舗数を増やし、売れる商品を並べなければなりません。

現在、ニトリは国内外に、607店。さらに拡大を続けるとみられており、売上規模の拡大も続くと思われます。


「お、ねだん以上」のキャッチコピーが象徴する商品の企画開発力も素晴らしい。

店舗数ばかり増やしても、商品が売れなければ、在庫が余って破綻してしまいます。

そうならないのは、ニトリの商品開発と価格設定が適切だからといえます。

が、それだけではありません。

実は、ニトリの売上構成比で、家具は、40%以下にすぎません。

60%以上が、雑貨、キッチン用品、家電などです。

つまり、ニトリは、もはや家具小売りというよりも、ホームセンターや雑貨店のような品揃えになっているのです。

日本の家具市場は、ピーク時から4割減となっています。人口減、新築一軒家の減少、ライフスタイルの変化など、構造的な問題ですから、企業努力で何とかできるレベルではありません。大塚家具も破綻に追い込まれるというものです。

そんな大きな経済環境に適応するために、ニトリは、品揃えを変化し続けてきたわけです。

それも含めたマーケティング力が、ニトリの大きな強みとなっています。


目標は、売上高3兆円!


家具専門チェーンとして、ニトリはダントツトップです。

生活雑貨店や家具系のホームセンターを入れても、トップです。

しかもホームセンターの島忠を買収したので、さらに売上規模が拡大しています。

この勢いを駆って、ニトリは、2032年に、3000店舗、売上高3兆円を目指すと発表しました。


現在が、約607店、売上高7200億円弱ということですから、仰天の大目標です。

思わず、血迷ったか?と言いそうになりましたが、天下のニトリですから、充分に勝算があるのでしょう。

それにしても、10年で、売上高を4倍以上に、どうやって達成するというのでしょうか。


家電やアパレルに進出


ニトリのサイトなどをみていると、どうやら、同社の戦略は、

(1)商品分野の拡大

(2)ネット通販の拡大

(3)海外展開の拡大

という3方向にあるようです。


(1)商品分野の拡大というのは、ニトリがこれまで家具から雑貨や家電にシフトしてきた流れを推し進めるということです。

家電商品については、まだ数量も少なく、拡大余地は大きいでしょう。

いまは、大手家電メーカーの力が弱まり、小さな会社がアイデアを凝らして作る一芸家電が、人気を博しています。

おそらく、ニトリのPB家電も、機能特化し、価格を抑えたものになるはずです。

こちらは、相当の売上規模になることでしょう。

さらには、アパレル分野に進出するような報道もあります。

アパレル企業が軒並み苦しんでいる現在、いいチャンスかもしれません。

が、ユニクロやguとバッティングする方向性であり、困難が伴うとは思います。

(2)ネット通販に関しては、すでに積極的に取り組んでおり、急激に業績を伸ばしています。

が、こちらも、まだまだ規模は小さい。今後の伸び次第です。


海外展開がうまくいっていない


(3)海外展開が最も問題です。

実をいうと、ニトリの海外展開は、いまだ70店弱で、国内と比べると、うまくいっているとは言えません。

台湾で30店舗強、中国で34店舗強、米国に至っては、2店舗です。

海外展開にまで手が回らなかったのでしょうか。

ニトリ側はそういうでしょうね。しかし、私には、やろうとしてもうまくいかなかったのだと思えます。

ここが、売上の4割から5割近くを海外が占めているユニクロや無印良品などとの大きな差です。

家具の世界でいうと、イケアは、バリバリのグローバル企業です。

イケアの売上は、日本国内では870億円程度、ニトリの10数%にすぎませんが、世界全体でいえば、4兆8千億円を超えています。ニトリを遥か足元にも寄せ付けないレベルです。

いったい何が、このような差になっているのでしょうか。


海外展開するにはコンセプトが弱い


答えをいうと、海外展開に成功している企業は、コンセプトが明確です。

ユニクロは、ファッションではなく日用品としてのアパレル。

無印良品は、シンプルで無駄のない生活スタイル。

イケアは、北欧文化の生活スタイル。

こうしたコンセプトが受け入れられた国では、展開に成功しています。

(例えば、禅をイメージさせる無印良品のコンセプトは、派手好きなアメリカでは受けが悪く、欧州では受け入れられているようです)

では、ニトリは、海外に進出するのに、どのようなコンセプトで打って出ればいいのでしょうか。

ちょっと安い家具?

安いけど、ちょっといい家具?

日本の住環境に合った家具?


要するに、海外展開するには、コンセプトとして弱いのです。


3兆円達成の鍵は、グローバル展開


もともと似鳥昭雄氏は、渥美俊一氏の唱えたチェーンストア理論の信奉者として知られています。

チェーンストア理論とは、多店舗展開する際の、集中化と標準化を中心とした手法であり、人口規模を背景とした旺盛な消費需要を捉える際に、大きな効果を発揮しました。

ただバブル崩壊を経て、消費意欲が減退する時代になると、大手量販の業績は軒並み下がり、そのこともあって、チェーンストア理論は下火になってしまいます。

同理論の優等生だったダイエーの破綻が、それを端的に表しています。

もっとも、ニトリは、その理論を独自にカスタマイズし、変化する需要を巧みに捉えなおすことで、さらに業績を拡大していったわけですから、立派です。

ただし、海外においては、事情が異なります。端的にいうと、日本人とは、まったく違う欲求を持っています。しかも国や地域によって欲求がバラバラなので厄介です。

ニトリの成功要因は、経費削減や、細かなニーズの拾い上げを一歩一歩積み上げてきたことです。何か突拍子もない仕掛けや裏技ではなく、当たり前のことを積み上げてきたところに盤石の強さを持っています。

じゃあ、その強さを海外でも発揮できるでしょうか?

これまでのように、各国各地域の事情に合わせて、細かな需要を拾い上げ、商品開発に取り組んでいけばいいのでしょうが、そんなことが果たして可能でしょうか。

できないことはないでしょうが、時間がかかりすぎます。

やはりグローバル展開するためには、世界に通用する明確なコンセプトを打ち立て、世界全体に展開していくことが現実的です。

イケアも、ユニクロも、無印も、それをやっています。


国内においては、おそらく、このまま、商品分野を増やし、他の量販店やホームセンターを買収することで、売上規模を拡大していくことは可能でしょう。

ただ、3兆円を達成するためには、海外展開は不可欠です。

そのためには、海外に受け入れられるコンセプトが必要であり、それが作れるかどうかが、展開の可否を左右することでしょう。

国内では無敵のニトリも、海外展開には苦労しそうだと思えるのは、なんだか人間的ですね。