今回は「営業」の話です。
以前、私のところへ相談に来られた方がおられました。
その方はあるサービスを提供する小さな会社の二代目経営者でした。
経営といっても、ほぼ一人でされているので、作業も経理も営業も自分一人でしなければなりません。
もともと技術者なので、コツコツした作業は得意なのですが、営業は未経験で、苦手意識があるようでした。
これまで親の代からの顧客に満足してもらおうと一所懸命に働いてきたが、それだけでは事業を維持できなくなりそうだ。新規顧客を開拓しなければらない。という相談でした。
誰もがいやがる新規開拓営業
営業には、新規開拓営業と既存顧客営業があります。
このうち、多くの人が苦手としているのが、新規開拓営業ではないでしょうか。
新規開拓営業が難しいのは昔からなのですが、最近は特に難しいと感じる人が多いと思います。
市場が成長していないので顧客数が増えない。まっさらの顧客などどこにも存在しません。だから、他の会社の顧客を奪わなければなりません。
そうなると、他企業からの抵抗も激しいですし、顧客自身も切り替えることを面倒がります。
抵抗と面倒をはねのけて顧客を獲得しなければならないのですからそれは大変です。
新規開拓しなければじり貧になる
営業担当者は新規開拓営業などできればやりたくないと考えています。既存顧客営業(ルートセールス)をやっていれば、それなりに業績も上がるし、なにより忙しい。わざわざ迷惑そうな顔をする見込み客に会いたくないというものです。
しかし、新規顧客開拓営業なくしては会社の未来はありません。
既存顧客を大切にすることはなにより大切ですが、それだけでは会社は発展しません。
顧客は一定の割合で減少していきます。勢いを失う顧客もいますし、ライバル会社に奪われる場合もあります。
社会は変化していきますから、需要の在り様も変わっていきます。新陳代謝の乏しい顧客リストでは、事業そのものがじり貧になっていくでしょう。
難しいけど、新規開拓には取り組まなければならない所以です。
「寝ていても顧客が集まる方法」などありません
その方も、そこに思い至ったわけです。
その方、自分の技術に関しては非常にプライドを持っていて、この仕事は十数年の積み重ねの上に成り立っている、絶対に手抜きしない、と堂々発言される方でした。
ところが、営業に関しては「楽にできる方法はないのか?」それこそ「寝ていても顧客が集まる方法を教えてほしい」というような手抜き加減でした。
確かに営業は、十数年の修行がなければできないものではありません。入ったばかりの新人でも営業に駆り出されます。
しかし、誰でもできるからといって、手抜きが通用するほど甘いものではありません。
他の仕事と同じです。コツコツとした地道な取り組みなしには成果は上げられません。コンスタントに成績を上げられる営業はみな真面目に努力しています。
というようなことをその方に滔々と説明し、新規開拓の方法論をお伝えしました。
新規開拓のゴールは、口座を開設すること
先日、その方と二年ぶりにお会いしました。
ずいぶん晴れやかで元気な顔で、以前お会いした時とは別人のようでした。
新規開拓営業についても、自分なりに取り組んでおり、まだ道半ばではあるものの先が見えてきているというようなことを仰っていました。
私が以前、お伝えしたのは、新規顧客開拓は「確率」で捉えるべきだということでした。
100発100中の新規開拓営業などありません。10回に1回、話を聞いてくれる顧客がいれば上出来だ、ぐらいに考えていなければなりません。
だから最初から「絶対に取引しよう」などと気負っていたら、自分も顧客も気づまりです。「ついでがあれば声をかけてください」程度のアプローチがちょうどいいのです。
そもそも新規顧客は、口座を開くことが目的です。がっつりの取引がなくても、口座さえ開ければOKとします。
口座数さえ増えれば、関係を深化させるのは、既存顧客営業の仕事ですから、また別の方法論があります。ここでは論じません。
第一段階:営業行動の成功確率を測る
そこでその方が行ったのが、「紹介」と「飛び込み」営業でした。
既存顧客に声をかけて紹介をお願いしました。何件かは新規顧客ができたそうです。
が、それは少数です。新規開拓のメインはあくまで飛び込み営業だと覚悟を決めて、配達の途中などに顧客となりそうな業者を見つけたら飛び込みを繰り返しました。
結局、確率とは量を増やすということです。成功確率が1%であっても、量さえ増やせば成果も上がります。
断わられることが続いたらメンタルがやられてしまうと思われるかも知れませんが、そこはダメでもともとと思いながら取り組んでもらわなければなりません。
「何かあったら声をかけてくださいね」といって、名刺と簡単なパンフレットを置いてくるだけですから、それほど負担にはならないはずですが。
この段階で、知るべきは、飛び込み営業の成功確率です。
1%なのか、10%なのか、20%なのか。
これを正確につかむことができれば、行動量から成果を予測することができます。
「先が見える」とは、こうした計算が立つということです。
第二段階:ランク付けする
ただ、飛び込み営業も長く続けていれば、工夫をするようになります。
量が質を伴うようになるわけです。
その方の場合、営業トークがうまいわけではありません。相手をその気にさせて巻き込むようなテクニックはありません。
それだけに、会うと、その顧客に聞く姿勢がある、興味がある、人としてウマが合う、ということが如実に現れます。
だから、パンフレットを渡した時の印象で
A:興味を持っているので、すぐに提案にいく
B:話を聞いてくれそうだから、一週間後に、もう一度行ってみる
C:脈がなさそうなので、しばらく行かない
というように分類し、記録していきました。
ここで大事なのは、記録するということです。記録しないと、迷惑そうな顔ばかり印象に残って、萎えてしまいます。
記録があれば、可能性のある顧客が増えていることが目に見える形で残ります。
第三段階:顧客ランクごとに行動する
当然ながらAのような見込み顧客ばかりなら、高確率で口座を開くことができます。だから、そちらを優先させます。
Bの顧客に対しては、次に訪問した際に、Aになる人かどうかを見極めます。
その気がなければCに分類します。
Cは放置しておくかというとそうではなく、定期的にニュースレターを送付するなどして、気持ちが変わるのを待ちます。
要するにそれぞれの確率に応じて、営業のウェイトややり方を変えることで、全体の成功確率をコントロールしているのです。
今では、最初に会った印象から「この顧客は3回ぐらい行って見極めよう」とか「1か月後にもう一度行ってみて、ダメなら諦める」とか「半年後にもう一回行ってみようかな」など、細かく分けられるようになったといいます。
それを表に記録して、そのプラン通り営業しているというのだから、実に見事な営業マネジメントをマスターしたものです。
確率的営業とは、農耕的手法
飛び込み営業というといかにも狩猟的な営業手法のように思えますが、その方のやっているのは、種を撒き、発芽させ、生育状況をみて、収穫する、という農耕的手法です。
何度も言いますが、その人の場合、営業テクニックが優れているわけではありません。もちろん2年間の経験からある程度のノウハウは得ているでしょうが、もとは話下手な職人気質の人でした。
その方がやっているのは、取引する可能性がある顧客を見極めて、再訪問を繰り返しているだけです。
決して一発勝負、運まかせ、腕まかせのやり方ではなく、見込み客を蓄積し、確率的に顧客を増やしていく手法だということが分かっていただけるでしょうか。
その方、「まだまだですよー」とは言いながら、自分のやり方に手ごたえをつかんでいるようで、明るい表情が心情を表していました。
実際、いまだ安定的な顧客基盤があるわけではないようです。が、そこに至る道筋は見えているのでしょう。
真面目にコツコツ努力する人が成功するのは、みていて気持ちのいいものです。