(2007年6月7日メルマガより)

■今年の4月初めにアメリカの検索エンジン大手のグーグルが「テレビ広告仲介」事業への参入を表明しました。

手始めにアメリカの小さな衛星放送会社と組んで、広告配信するようです。

■グーグルの提供する広告は、セットボックスと言われる機械で視聴状況を把握し、視聴されただけ課金するシステムです。

視聴者の属性なども細かく把握することができるので、広告内容も選択することができます。

また広告主は広告枠を「オークション形式」で購入することになります。

まさに、インターネット広告の方式をテレビでやろうという試みです。

■報道などでは、このグーグルの動きを「テレビを含めた広告事業全体の制覇」「インターネット広告のみの事業体質からの脱却」などと解説されていました。

しかし、大前研一氏は自身のCS放送(BBT757)の中で「そんなことしたら、テレビ広告の効率の悪さがバレるじゃないか。だからテレビ局はそんな話には乗らないだろう」と一蹴していました^^

もしかしたら、グーグル側もそれを見越して、一種の嫌がらせでテレビ広告事業に参入しようとしているのかも知れませんね。

■もうかなり前から、テレビ広告という手段の効率性は問題視されています。

特に「弱者」と位置づけられる企業は、一般大衆全体を相手にする「マス・マーケティング」を行うわけではないのですから、テレビ広告に資金投入する意義は小さいはずです。

「弱者には弱者の販促手段があるはずだ」とセミナーでも言わせていただきました。

■「販促会議」2007年3月号に面白い事例が載っていました。

古い話(たぶん20年以上前)なのですが、雪印乳業が、粉ミルクの販売シェアを大幅に伸ばした時の事例です。


雪印乳業株式会社
雪印乳業
1961


その頃、雪印乳業は業界3位。上位の森永乳業、明治乳業に差をつけられていました。

当時の販促手段といえばテレビや新聞などのマス広告です。広告でイメージや機能を訴えて、消費者に認知してもらうという方法です。

ただ、儲かっている企業は、より多くの広告量を投入するので、3位企業としては逆転のきっかけがつかめません。同じ手段をとる限り、弱者は強者に勝てないのです。

■しかし、よく考えてみれば、赤ん坊のいる家庭は全世帯の1%程度です。テレビや新聞の広告は99%は無駄になっているということ。恐ろしく非効率な話です。

CRM(Customer Relationship Management)という概念は、この非効率さをなんとかしなければならんということで生まれたものです。

*情報システムを応用して企業が顧客と長期的な関係を築く手法のこと。詳細な顧客データベースを元に、商品の売買から保守サービス、問い合わせやクレームへの対応など、個々の顧客とのすべてのやり取りを一貫して管理することにより実現する。顧客のニーズにきめ細かく対応することで、顧客の利便性と満足度を高め、顧客を常連客として囲い込んで収益率の極大化をはかることを目的としている。(IT用語辞典 e-wordより)

もっとも現実には、顧客とのやりとりに存外な費用がかかり、結局マス広告の方が何も考えなくていいからマシだということにもなっていました。

■雪印乳業は、現場セールスの「赤ん坊の母親が使う粉ミルクの銘柄は、どうやら入院していた病院が使用していた銘柄と同じである」という情報に注目します。

市場調査部隊が、徹底したリサーチを行ったところ、その情報が正確であることを知りました。

同じことをやっていては勝てないのならば、違う方法に賭けてみよう。

そこで、業界の常識であったマス広告の予算を大幅に削り、浮いた数十億の原資を「病産院向けの販促費」に振り分けました。

(販促費の使い道については書かれていませんが、要するに、病院側への接待などに使ったのでしょうかね)

また、病院には試供品や哺乳瓶などを大量に投入し「お母さんに"使用銘柄"を周知すること」を徹底させました。

その結果、1年半ほどで、売上高1.5倍、市場シェア10%アップを勝ち得たということです。

■確かに、うちでも病院で使った銘柄をその後も使用していました。赤ちゃんが最初に飲んだミルクを変更することには抵抗がありますから。

今では、様々なメーカーが、産院で粉ミルクの試供品セットを無料配布しています。この販促方法は、今では、業界スタンダードになったということなのでしょうね。

この事例では、いち早く新しい販促方法を見つけ出した雪印乳業の勝利です。

もっとも、当時は、マス広告から販促方法を変えるという決断に、相当、社内の抵抗があったということですから、前例というのは強固なもののようです。

■弱者の基本戦略は「差別化」です。

販売促進においても、強者と同じことをしていたのでは、いつまでも弱者の立場から抜け出せません。

特に販売促進においては、まだまだ非効率な慣習的手段をとり続けている業界が多いと思われます。