規模の不経済 脱するには (日本経済新聞・有料記事)

規模の不経済という概念が述べられています。

いま世界的な潮流として、規模を追うことを避ける企業が増えてきているとか。

市場ニーズの多様性が表向きの理由です。多品種少量生産に対応しないと生き残れません。

自動車メーカーのトヨタは、多品種生産に対応しながら規模を徐々に上げていった会社です。

多品種生産なのに生産性を落とさない「かんばん」や「ジャスト・イン・タイム」は世界に衝撃を与えたものです。

ところがそのトヨタでさえ規模の不経済ともいうべき収益率の低下の兆しが出始めているという指摘です。

規模の不経済とは


規模の不経済とは、一定以上の規模を得ると逆に収益率が低下するという現象を指した言葉です。

会社内部の理由としては、効率的な生産体制といえども徐々に無駄が出てくること。研究開発費や品質管理費、人件費の増大です。

社会的な理由としては、大量生産による環境問題への対応コストの増大。車でいうと渋滞、地球温暖化などに対応しなければなりません。

こうした問題が出てくるということは、自動車産業全体が一定の規模を超え、成長がコストを覆い隠すような状況ではなくなったことを示しています。

完全独占は必ずしも良い状態ではない


ランチェスター戦略には「市場シェア理論」というものがあります。そこでは市場シェア73.9%を超えると完全独占状態となり敵なしになると規定されています。

ところが、完全独占状態とは必ずしも良い状態ではありません。

上記にあげているように、社内も社外も疲弊していくからです。

ランチェスター戦略では、正しい競争がなければ、社内は怠慢になり、顧客は不満を持ち、別のものを求めだす、といわれています。

別のものとは何か。車でいうと、電気自動車や燃料電池自動車など全く違う技術をもった車の登場がそれにあたります。

成熟市場においてどのように振る舞うか


トヨタ自動車が完全独占状態になるような市場シェアを得ているわけではありません。

フォルクスワーゲン、GMとともに健全な競争を行っていることでしょうが、それでも規模の不経済という兆候が出てくるのは、車産業が成熟し、一機種を大量に生産するビジネスが儲からなくなってきているということです。

これからの自動車産業は、細かなニーズに対応した高付加価値車を作るか、電気自動車などの次世代車に量産体制を移行していくか、が大きな戦略方向性となりそうです。

トヨタ自動車が突然、スポーツカーの新ブランドを作ると発表したのも、高付加価値車へのシフトを考えてのことなんでしょうね。

大衆車の量産ビジネスを得意とするトヨタとすれば、ビジネスの転換に挑む思い切った発表だったのでしょうが、客観的には時代錯誤感があります。

スポーツカーをいくら作ってもトップ企業にはなれないでしょうから。

次のビジネスでトヨタは生き残れるのか


むしろ電気自動車はAIと結びついて、新たなビジネスへと変貌していきます。

参考:ソフトバンクは、なぜ傷だらけのウーバーに出資するのか

次のビジネスは、自動車だけで完結せず、社会インフラ全体を巻き込む壮大なものになりそうです。

※電気自動車は蓄電装置となり、自動運転車は個人所有を離れ社会資産となっていくはず。

その時に主役となるのが今の自動車メーカーである必然はありません。IT企業かも知れませんし、ネット小売業かも知れませんし、家電メーカーかも知れません。

次世代ビジネスへの意欲を感じさせないトヨタの動きが気になりますが、それも時代の流れだということなんでしょうかね。