阪神タイガース
皆さま、おめでとうございます!

ついに我らが阪神タイガースが、日本プロ野球の頂点に立ちました!

1985年、バース、掛布、岡田の時代から38年ぶりの日本一です。

何と素晴らしいことでしょうか。

38年前、私は大学生でした。まさかそれから還暦近くになるまで日本一を経験できないとは思っていませんでした。

日本一というのは、それほど難しいものなのですね。


そんな阪神タイガースを、1985年は主力選手として、2023年は監督として、日本一に導いた岡田彰布監督は、まさに日本一の名将となりました。

いろんなメディアで報じられていますが、とにかく今年の岡田監督の采配は、見事でした。

その能力は、日本シリーズでも遺憾なく発揮されて、さながら今年の阪神タイガースの集大成のようでした。

もちろん、パ・リーグを三連覇したオリックス・バッファローズの凄まじい強さがあってこそですが、このような充実した日本シリーズが見れたことを一野球ファンとして、素直に喜びたいと思います。

私は、野球評論家でもなんでもないただの阪神ファンですが、今回は、野球について語るのをお許しください。


岡田監督の優れた采配


たとえば、第1戦、機動力を武器とする阪神タイガースが、1回に盗塁を仕掛けました。走ったのは、足の早い中野選手ですが、若月捕手によって阻止されてしまいました。

今日は盗塁は難しいのかなと思った5回、普段は走らないスラッガーの佐藤選手が、意表をつく盗塁を成功させて、それをきっかけに先取点を奪いました。

第1戦、難攻不落といわれた絶対エースの山本が崩れたのは、この盗塁があったからだと言われています。

阪神の選手も山本の速球を捉えましたが、その前に、岡田監督の状況を読んだ見事な作戦があったことを忘れてはなりません。

ただし、それからは、殆ど盗塁を仕掛けさせず、送りバントやヒットエンドランに作戦を切り替えたのだから、現実を見ています。


あるいは、第4戦、どちらに転ぶかわからないシーソーゲームの8回、同点の場面で、湯浅をマウンドに送りました。

ご存知がどうか、湯浅といえば、WBCにも選ばれた剛球ストッパーですが、今年は調子が悪く、怪我もあって、殆ど活躍していませんでした。

その湯浅が現れたのだから、甲子園の盛り上がりは最高潮に達しました。

果たして湯浅はわずか一球で中川選手を抑え、2アウト1、3塁のピンチを切り抜けました。

この采配が、阪神に流れを呼び、結果として、9回、大山のサヨナラヒットにつながりました。


戦いは、流れを掴んだ者が勝つ


野球は「流れのゲーム」だと言われます。これは野球だけではなく、あらゆるスポーツや勝負事には流れがあります。

流れが悪い時には耐えて、流れが良い時にはそれに乗って攻めるのがセオリーです。

これは2500年前に書かれた中国の兵法書「孫子」にも「善く戦う者は、之を勢に求め、人に責めずして、之が用を為す」と書かれていることです。

つまり、戦争においても、勢いが最も重要で、軍隊の運用は、勢いを得るためにするという教えです。

その点、今年の阪神タイガースは、レギュラーをなるべく固定し、それぞれが役割を理解し、全うできるようになるまで我慢して戦いました。

岡田監督が「このチームはだんだん強くなる」と言ったのは、流れを呼び込み、流れを逃さないための態勢を作るからだと私は理解しました。


究極の軍隊は無形


これに対してオリックスは、レギュラーを固定しないことで有名なチームです。仰木監督時代の頃からそうで、中島監督もそれを踏襲しています。

これは戦いのセオリーに反するのかというとそうではなく、孫子の「兵を形すの極みは、無形に至る」という考えに則しています。

軍が決まった形を持たず、常に状況に応じて臨機応変に戦うことが、究極の姿であるということで、オリックスのやろうとすることはこれに近いものがあります。

要するに、阪神とオリックスでは、用兵へのアプローチが全く違う、真逆だったわけで、これも面白い日本シリーズになった要因だと思います。

レギュラーを固定し、選手に責任と自覚を求める阪神に対し、オリックスは当日になるまでスタメンが発表されないので、登録選手は常に緊張感を強いられます。

オリックスの選手はそのスタイルに慣れているので、いつスタメンに抜擢されても準備ができているといいますから、どちらの用兵が優れているかとは簡単に判断することはできません。


指揮官は、兵と距離を保て


ただし、優勝するようなチームは、どちらも選手把握がうまいといえます。

これも孫子ですが、兵卒に関しては、「卒を視ること嬰児の如し」(兵卒は、赤子のように可愛がれ)と言いながら、別の部分では「士卒の耳目を愚にし」(兵卒には、余計な情報を与えるな→ありていに言えば騙せ)と一見、矛盾するようなことが書かれています。

2500年前の書物を現代風にアレンジするにはいろいろ無理が生じるので、この矛盾については目をつぶる人が多いのですが、私は、この部分は、「上に立つ者は、部下を愛するが、よい距離感を保ち、緊張感を維持しろ」と解釈しています。

騙せというと不穏ですが、要するに、部下が力を発揮できるような環境やムードを作れということです。

そう考えると、岡田監督、中島監督、それぞれのスタイルで、選手といい距離感を持っているように思えます。

岡田監督について言えば、コーチを通じてしか選手と接せず、直接話すことは殆どないということです。

ただ、マスコミを通じて、個々の選手の評価を伝えることはあります。それがあまり辛辣だと阪神時代の野村監督のように選手の反発を招くかもしれませんが、今のところ、おじいちゃんのぼやき程度にとどまっているので、大事にはなっていません。

日本シリーズ第7戦に勝利し、マウンドあたりで胴上げされた岡田監督は、選手たちがまだ歓喜の渦に浸る中、ひとりで輪を離れ、ベンチに歩いていきました。

その姿を見た時、ああ、これが指揮官の距離感なのだと、納得し、何か感動のようなものを覚えました。


岡田監督、本当にありがとう。