IOTは
(2018年11月15日メルマガより)

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IoT(Internet of Things)とは、物のインターネットのこと。様々なモノがインターネットにつながることを示しています。

モノがインターネットにつながると、モノに関わるデータを収集しやすくなりますし、逆にモノに対してデータを送りやすくなります。遠隔操作でモノを動かすことも可能になりますし、モノとモノが相互に連携したり、制御しあったりすることも可能になります。

例えば、商品を購入したユーザーが、それをいつどのように使用しているかという情報をメーカー側が収集できるようになります。そうしたデータは、次の商品の開発や改良に役立てることができます。

同時に、もっと便利になるようなデータやソフトの更新を遠隔で行うことができます。

モノの効率化、適正化が進み、社会的にみて生産性が飛躍的に上がると考えられています。

IoTは、第三次産業革命の主要素のひとつであり、世界中がその変化に対応しようと取り組んでいます。



IoT家電の主役はアマゾン


今年も世界中で開催されている家電見本市において、IoT関連の製品が多く発表されています。

ただ、その主役は、いわゆる従来の家電メーカーではなく、IT系企業です。

ここでも名前が挙がるのがアマゾンです。(またアマゾンか!)

アマゾンは、アメリカで家電販売額2位の小売り店です。そのアマゾンが製造するAIスピーカー「アマゾン・エコー」は、出荷台数1億台を超える勢いで売れており、IoT家電の代表的存在となっています。

ちなみにAIスピーカーとは、声で操作する小さなコンピューターです。内臓されているAI(人工知能)が本人の声を認識し、指示を受けると、音楽を流したり、ニュースを読んだり、天気予報を知らせたり、分からないことを調べてくれたりします。いわば、声で操作するスマホのようなものですな。

アマゾンやグーグルのAIスピーカーは、家の中にある家電ともつなげることが可能で、声掛けすると、電気をつけたり、テレビのチャンネルを変えたり、風呂を沸かしてくれたりもできるようになります。

AIスピーカーに連携可能な家電製品も増えてきており、その利便性が高まっています。


IoT家電になって得をするのはメーカー側


家電がインターネットにつながることによって、利益を得るのは、実はメーカー側の方です。

ユーザーが購入し、所有している製品が、いつどのように使用されているかを把握することは、今後の開発や改良に大いに資するところとなります。

IoTの先駆けともいうべき事例に建築機器大手コマツのコムトラックスというシステムがあります。

もともとこのシステムは、盗まれた建築機器(トラクター)が犯罪に使われることを危惧したコマツが機器にGPSをつけたことが始まりです。

「コマツの建築機器は盗まれてもすぐに見つけてくれる」という評判は、販売施策においても、プラスに働いたことでしょう。

しかし建築機器がつながっていることのメリットはそんな程度ではありません。

ある会社所有のトラクターが、何時頃何台動いているのか、あるいは、ある地域で実際に稼働しているトラクターが何台あるのか、というデータは、販売戦略や生産戦略を立てる上において、極めて重要な要素となります。

さらにいうと、不具合や事故のデータを組み合わせることで、機器の開発や改良のヒントにもなります。

コマツが、今の地位を築いたのは、まさに製品をネットにつなげたことだと言っても過言ではありません。


煮え切らない日本の家電メーカー


では、日本の家電メーカーはどうなのか?

といえば、どうにも歩みが遅いように感じられます。

製品をインターネットにつなぐ技術そのものは既に確立されており、難しいものではりません。

だから各社とも、IoT家電を試験的に製造しているもののあまり広がっていません。

ネットにつなげる機能を付加するとコストアップになりますが、その分を売値に転嫁しにくい。なぜなら消費者にとって、つながることのメリットを感じにくいからです。


言われてみれば、家電がネットにつながったからと言って、何が嬉しいのか?今一つピンときません。

例えば、エアコンがネットにつながるとどんないいことがあるのか?というと、外出先からつけたり消したりを遠隔操作できるぐらいでしょうか。

そんなもんタイマー機能で何とでもなるわ。とユーザーは思うでしょうね。

要するに、つながる家電のメリットはメーカー側にあります。それなら、メーカー側が負担すればいいのに、できないというのは、その費用対効果を測りかねているということです。


アマゾンに主導権を渡してもいいのか


いや、コマツも当初は費用対効果を測りかねていたが、いち早く全品ネット対応したために大きなアドバンテージを得ることができたわけです。

日本の家電各社もうじうじ悩まないでさっさとやればいいやん、と思いますが、そこも少々複雑な問題があります。

そもそも家電製品一つがネットにつながるよりも、すべての家電製品がネットにつながった方が、メリットが大きいわけです。

エアコンとテレビと照明が全部バラバラでは、アプリばかり増えて面倒なことこの上ありません。

それより、全部が一つのコントロールセンターで制御できる方がいい。そのためには、各メーカー同士の協力が必要ですが、だれが主導権をとるのかすんなり決まるわけがありませんよ。

そんな面倒なことをするぐらいなら、日本の家電ぜんぶをアマゾンやグーグルのAI対応にしてしまえばいいのです。

それならすぐにでも、家一軒すべてIoT家電になります。

が、そうはしたくないわけですな。

アマゾンやグーグルは、AIスピーカーで儲けているわけではありません。儲けるのは、AIスピーカーを使用したユーザーが、アマゾンのネット通販を利用したり、クラウドシステムを利用したり、グーグルの広告機能を利用したりした時です。

アマゾンのAIスピーカーにつなげると、アマゾンのビジネスを拡大することにつながりますし、グーグルもしかりです。

安易につなげてしまうと、アマゾンやグーグルに美味しいところは持っていかれて、自分たちはただの箱にされてしまうという危機感があるのです。


しかし将来の方向性として家電製品がネットにつながっていくことは間違いありません。あまりグズグズしていると、また海外のメーカーに遅れをとって厄介なことになってしまいます。

ではどうすればいいのでしょうか。


(1)メーカーが自社でネットシステムを構築しハブとなる


ひとつは、メーカーが覚悟を決めて、アマゾンに対抗できるような自社システムを構築することです。

ハブとは、自転車のホイールの中心部分のこと。ネットワークの中心を担うことを例えた言葉です。

製品ラインナップの多い企業はこれができます。

パナソニックは、アマゾンに対抗して、自社システムで家一軒IoT家電にする構想を持っています。

もちろん自社製品だけでは不便なので、他社にもシステムに参加するように呼び掛けており、20社が参加するというニュースがありました。


なんと、グーグルのAIスピーカーにもつながるようですね。

実にわかりやすい反アマゾン連合であり、参加企業がさらに増えると、面白いことになりそうです。

もしグーグルが本気になり、パナソニックのシステムと共同でグローバル展開することになれば、それこそアマゾンに対抗できる勢力になるかも知れません。

期待大です。


(2)メーカーが自社独自でネットワークシステムを開発し単独で運営する


パナソニックのシステムに入ることを嫌がる企業は、独自システムでいくことになります。

思えば、アップルも単独でネットワークシステムを持っています。

ただしネットワークを使ったサービスはあくまで付加機能の位置づけであり、そこで儲けているわけではありません。儲けているのは本体の販売です。

アイチューンズが莫大な利益を上げているわけではありません。アップルの巨大な利益の殆どはアイフォーンなどの本体機器の販売利益です。

そういう意味では、アップルのビジネスモデルは、家電メーカーと同じですね。

ただアップルほど巨大な企業でなくても、ネットワークシステムの構築は可能です。

家一軒IoT家電なんて大そうなことは考えず、自社だけで運営します。

ネットにつなげるのはデータを取得するためと割り切り、自社でコスト負担します。

あれこれ悩むより、スピードを重視して、単独でつないでしまった方が、早くデータを蓄積できます。

そのデータをヒントに、次世代製品を作っていけばいいのです。

これは各社とも試験的に始めていることです。


(3)アマゾンやグーグルのシステムに乗っかるが、製品の魅力で勝負する


最近、ローテクながらニッチ機能に特化した家電製品を製造販売する中小企業やベンチャーが出現しています。


こうしたメーカーは、ニッチ機能の珍しさで勝負しているので、付加機能であるネット関連サービスは自社オリジナルである必要はありません。アマゾンやグーグルに乗っかればいいのです。

例えば、パン焼き機や炊飯器など、機能特化した電気調理器具が人気を集めています。そこにひと機能付加するとすれば「常に新しい調理方法やメニューが更新されており、クリック一つで調理準備できる」「素材など足りないものをワンクリックで注文してくれる」などですか。

冷蔵庫なら気温に応じて、冷蔵機能を自動調節してくれる機能とか。

まあ、なくてもいいんですが、あれば便利かな。という程度の機能ですね。これらはグーグルやアマゾンの機能を使えばすぐにできるはずです。

元来、こうしたニッチメーカーは、ライバルが真似をしてきて、ありふれた商品になってしまうと、潔く止めてしまいます。

すぐに止めるような商品についていちいち自社システムのネットワークを作っていたら、コスト倒れになってしまいます。

常にマイナー需要を拾っている存在なので、アマゾンにライバル視されて攻撃を受けることもないでしょう。

これがパナソニックやソニーのようなメーカーだと需要規模が大きいので、アマゾンとガチで対決しなければなりませんが、小さな会社は、これで充分ですね。


(4)アマゾンやグーグルのシステムに丸乗りする


多くの人が欲しがる製品は、ライバル企業が多いので、価格勝負になり儲かりません。

アマゾンが得意とするのは、このありふれた製品の市場です。

アマゾンというのは「儲けない」ことを信条としています。いま儲けるよりもシェアをとりたいという考えがあるからです。

例えばAIスピーカーの「アマゾン・エコー」は、原価すれすれで販売していると言われています。

まずはエコーを世の中に広めて、利用者の利便性を高めたいと思うからです。

(エコーを使う人が増えれば、エコーと連携しようというサービス会社が増えてきます。だからユーザー数が増えれば増えるほど、便利になってきます。これをネットワーク外部性といいます)

しかもエコーは本体機器で儲ける商品ではありません。それを使った人がアマゾンのサービスを購入すると儲かる仕組みです。

つまり、エコーは無理をして安売りしているわけではありません。これからも今の価格を維持できる商品です。

こんな商品に対抗するだけ無駄ですよ。

だから乗っかるわけです。

アマゾンの手のひらの上で、アマゾンのルールに則ってビジネス展開すると割り切るのです。

コンテンツメーカーなら、アマゾン・エコーで機能するアプリそのものを作ればいい。

あるいはグーグルのシステムを搭載した簡易タブレットを作ればいい。(実際、グーグルのシステムを使った簡易スマホが途上国を席巻しています)

もちろん低価格にしなければならないので、薄利多売もいいところです。1個あたりの利益はあるかないかわからないほどです。

それでも量は見込めます。生産地を慎重に見極め、生産効率を極限にまで上げるとえらい儲かるビジネスができるかも知れませんよ。


ベータ版を上梓できる商品戦略


AIスピーカーは、機器本体に価値があるわけではありません。それを使用するためのアプリ(ソフトウェア)があってはじめて価値を持ちます。

こういう商品の場合、最初から商品本体の完成度を高めなくてもいいという特徴があります。

電源が入らないとか音が出ないという物理的な不具合は困りますが、普通に動きさえすればOKです。

なぜなら価値はアプリの方にあるので、とりあえずユーザーの評価を先送りできます。

後からおいおいアプリを充実していけばいいわけです。

いわゆるベータ版を販売しても許されます。これは他の家電製品にない特徴です。

つまり今までの家電にないものづくり発想で開発すべき製品です。


購入時よりも徐々に価値が上がる商品


普通の家電製品も、このような発想を採り入れられないものでしょうか。

すなわち、アプリをおいおい充実していくことで、商品の機能を高めていく仕組みです。

冷蔵庫や洗濯機などは、物理的な機能に縛られるので難しいのかな。

しかしテレビなどは、後からチャンネル数が増えたり、ネット番組がつながってきたりすると、面白くなるのではないでしょうか。

普通、家電製品は購入した時の価値がピークです。年数を経るごとに徐々に価値を棄損させていきます。

が、年々、サービスが増えていって、購入時よりも、5年目、6年目の方が価値が上がっているとすれば、素晴らしい。

買い替え時には迷いなく、同じメーカーの製品を買うことでしょう。


小回りが利く小さな会社にとってチャンス


特に中小企業やベンチャー企業はねらい目ですよ。

大企業は、ネットワークシステムを作るにも大掛かりで、充実したものを求められます。コストもそれなりにかかるでしょう。

が、小さな会社はそうではありません。

グーグルやアマゾンのシステムをうまく利用して、とりあえず作ってしまえばいいんですよ。それこそベータ版で。

グーグル翻訳を使った簡易翻訳機。

天気予報を充実させた海上時計。

その日のニュースを読み上げてくれるネットラジオ。

売れるかどうかわかりませんが、売れなければやめればいいんです。売れそうなら、アプリを充実させていけばいい。

小回りのきく中小企業なら、スピードをもって開発できるはずです。

案外、こうした姿勢から思わぬヒットが生まれて、業界の勢力図を塗り替えてしまうのかも知れません。