(2013年10月3日メルマガより)


■新型のiPhoneが売れているらしいですね。

先月9月20日に発売されたiPhone5sと5cのことです。

東洋経済の記事によると、たった3日で、世界900万台の売れ行きを記録したそうです。

前回のiPhone5が、3日で500万台の売れ行きだったということですから、実に180%の販売増です。

多くの人が意外な売れ行き増加に驚いたようです。

参考:新iPhoneが示す、アップルの恐るべき堅実さ 「3日間で900万台」の次にくる第2弾ロケット http://toyokeizai.net/articles/-/20651

■そもそも、今回のiPhoneが発売された時、市場はいたく落胆し、アップルは株価の急落に見舞われました。

売れ行きが好調であることを受けて、株価はいったん持ち直しましたが、またじりじりと下がってきています。

どうも我々は、アップルと言えば、常に想像を超えたところに創造性を発揮する革新的な企業だというイメージを持ち続けているようですが、今回のiPhoneに関する一連の動きを見ると、どうやらそのイメージは修正しなければならないのかも知れません。

■革新的な企業であったアップルというのは、すなわちスティーブ・ジョブズのいたアップルです。

新製品の革新性に絶対の自信があったスティーブ・ジョブズは、発売の日まで、決してその内容を漏らすようなことはありませんでした。

我々は、当日に製品を見て、期待を超える新しさに驚かされたわけです。

しかし、今回の発売にあたっては、アップル側が、意図的に事前情報を漏らしたらしいと言われています。

たぶん、そんなに驚くようなものではないよ...というメッセージだったのかも知れませんが、我々が、勝手に「どうもすごいものが出るらしい」と勝手に解釈してしまったようです。

今回の新製品の特徴は、iPhone5sと5cが同時発売されるということでした。

5sは、それまでのiPhone5の後継機種。だとすれば、5cは、その廉価版になるらしい。

すなわち、アップルは、ついに新興国向けに本気の商品を出すんだ!と市場は色めきたったわけです。

■現在、インドや中国では、低所得層向けに、50ドルから100ドルのスマートフォンが、発売されていて、じわじわとシェアを伸ばしていると聞きます。

これらは、iPhoneのような高性能ではありませんが、スマホとしての一通りの機能は備えていて、それなりに使えるもののようです。

あるいは、iPhone5sと殆ど遜色のないような製品も、台湾メーカーから発売されています。

台湾のメーカーは、本物のiPhoneの製造を担当しているところが多いので、それぐらい出来て当然ですね。

こちらはiPhoneもどきと揶揄されているようですが、本家iPhoneの半額程度で購入できるとあって、人気を博しています。

参考:"50ドルスマホ"普及で新興国ローカル端末が急伸!?低価格携帯端末に向けた三井物産の狙い http://diamond.jp/articles/-/34442

参考:中国で急成長!「iPhoneもどき」の破壊力 世界のスマホ市場から取り残される日本 http://toyokeizai.net/articles/-/19668

■50ドル、100ドルのiPhoneは無理だとしても、300ドル程度の製品が出るのではないか?

アップルが、ついに新興国攻略に本腰を入れて、本当の世界制覇に向かうのではないか。

これが、市場の期待を込めた予想でした。

ところが実際に発売された5cは、16ギガ、シムフリー版で500ドル台です。

なんとも中途半端な価格設定でしたから、逆にびっくりしたわけですな。

■今回、iPhone5sの売れ行きが大変好調であるというのは、喜ばしいことでしょうが、それを意図した品揃えだとすれば、これはつまらない。

なんだか、松竹梅の竹と梅を2つ揃えて、竹の売れ行きを伸ばそうというチャチな価格戦略の一環のように思えてしまいます。

ところが、世界のスマホ市場は、iPhone5sとサムスンのギャラクシーを頂点に、台湾メーカーの製品、中国製、インド製などが、ピラミッドを既に形成しています。

かつて自動車の市場において、低価格帯製品をじわじわ揃えていって、いつの間にか、ピラミッドの全てを浸食してしまった日本メーカーのようなダイナミックな動きをするプレーヤーが、その低価格帯メーカーの中にいないとは限りません。

だとすれば、彼らが力をつける前に、アップルやサムスンは、彼らをミートして、潰しておかなければなりません。

(ミートとは、ランチェスター戦略にいう強者の基本戦略です)

それなのに、今年のクリスマス商戦に向けて5cを売るんだーなんてことを言っているのは、あまりにもスケールが小さい...

■一方、日本では、ついにNTTドコモが、iPhoneを扱ったということで話題になりました。

これも予測されたことです。ドコモは、アップルとの交渉が進まず、スマホ扱いに乗り遅れ、顧客の流出に長らく悩まされました。

このたび晴れて、念願のiPhone取り扱いに至ったわけですが、いかにも遅い結末でした。たぶん、アップルも、ジョブズがいた頃のような強気の交渉をしかけてこなかったから契約為ったのだと思いますが、弱った者同士がようやく手を取り合ったというような気もします。

既にソフトバンクは日本での地歩を固め、今やアメリカを主戦場にしようとしています。株式の評価も、ソフトバンクの方がドコモより優勢です。

iPhoneの扱いにより、ドコモが急に売れるようになることはないでしょう。流出した顧客が少し戻ってくるかも知れませんが。

ただし、ソフトバンクとauが、iPhoneという武器を効かせられなくなったことは、確かですから、新たな差別化戦略が求められます。

孫正義氏は、これからはコンテンツの勝負だ、などと優等生的な発言をしていますが、具体的にはどのようなことをするのか、楽しみです。

もちろんauも、何か手を考えないといけないのは同じです。もっとも、彼らは、今までのようなフォロワーに戻るだけだと思いますが。

■それよりも、日本の携帯端末メーカーは、これを好機ととらえなければなりません。

ドコモがiPhoneを扱うことになり、当然ながら、ドコモが担いできたソニーやシャープの端末の売れ行きは鈍るでしょう。

それ以前に、パナソニックや東芝、NECなどは、ドコモの重点メーカーからも漏れていますから、さらに深刻です。

だとすれば、日本の携帯端末メーカーがこれから狙うべきは、地域密着製品ではなく、グローバル市場におけるiPhoneのハイエンド、あるいはローエンド製品です。

ハイエンド製品は、今、アップルやグーグル、サムスンが開発にしのぎを削っている分野で、次世代スマホというよりは、腕時計やメガネといった形状のものになりそうです。

これはもはや携帯電話というものではありませんね。コンピュータを装着する、着る、身に着けるといったSFチックな製品です。

突拍子もない技術というのは、日本メーカーが得意とする分野でしょうから、これは活躍してもらいたい。

実際に、家電品や自動車、ロボットと融合する形で、コンピュータの活用は進んでいますが、ぜひとも汎用品として製品化してもらいたい。そして、市場を創造してもらいたいものです。

■しかし、ローエンド製品はどうでしょう。

どうも日本企業には、低価格商品はやるべきではない、やっても成功しないという先入観があるようですが、市場規模はバカでかいところですから、簡単にあきらめるのはもったいない。

50ドルスマホのように、ガラケーをあたかもスマホのように見せかけて使うなんてのは、日本企業ならやろうと思えばできるはずです。

もちろん日本の人件費で製造していてはとても無理でしょうが、製造拠点がグローバル化している現在ならば、それも可能です。

大企業が無理だとすれば、中小企業やベンチャーが現れて、世界のスマホ市場をかきまわすぐらいはやってもらいたい。

アイデアさえあれば、ファブレスでも出来ることは多いはずです。

今こそ、アジアという成長市場を周辺に持つ日本の優位性を活かす時ですよ。

■どうもアップルは、成長後期に向かって、普通の企業になってしまったようです。

稼げる時に稼ぐだけ稼いで、そのキャッシュを元手に、次のビジネスに向かう。というのは、決して悪いことではありません。

むしろ、株主からすれば、確実に稼いでくれる方が、正当です。

何とも聞き分けのいい企業になったものですね。

このようにアップルが、さらに創造性を発揮して、巨大市場を手中に収めようとする野望を控えてしまった現在、中国やインドやその他。。。日本のメーカーにもチャンスがあるというわけです。